どうも、たきじです。
今回は2012年公開の映画『007/スカイフォール』の解説&感想です。007シリーズとしては、前作『007/慰めの報酬』に続く第23作。また、6代目ジェームズ・ボンドとしてダニエル・クレイグを迎えてリブートされた新シリーズ第3作となります。
↓ 前作の解説&感想はこちら
↓ その他のシリーズ作品の解説&感想はこちらから(各作品へのリンクあり)
作品情報
タイトル:007/スカイフォール
原題 :Skyfall
製作年 :2012年
製作国 :イギリス、アメリカ
監督 :サム・メンデス
出演 :ダニエル・クレイグ
ハビエル・バルデム
レイフ・ファインズ
ナオミ・ハリス
ベレニス・マーロウ
ベン・ウィショー
ロリー・キニア
オーラ・ラパス
アルバート・フィニー
ジュディ・デンチ
上映時間:143分
解説&感想(ネタバレあり)
"古き者"ボンドを描き込む脚本
本作は、個人的に007シリーズで最も好きな作品。本作は何より脚本が素晴らしいのです。
本作のストーリーは、シリーズの他の作品と比べてかなり独特。冒頭でジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)が死んだと認識されたり(これは第5作『007は二度死ぬ』でもやっていたけど)、MI6本部が爆破されたり、メインのボンドガールがM(ジュディ・デンチ)だったり、クライマックスが籠城戦だったり、メインキャラクターであるMが殉職したり。特に、MI6本部の爆破やMの死は、1作完結だった旧シリーズではできない大胆なストーリー展開です。
そんなストーリーも目を引くのですが、本作の脚本が素晴らしいのは、ボンドをある意味で"古き者"という立ち位置で描き、それを軸に他のキャラクターとの関係や物語を描きこんでいる点です。
怪我や年齢からボンドの肉体は衰えを隠せず、マロリー(レイフ・ファインズ)からは引退を促されます。ボンドがL字カミソリで髭を剃る様子を見たイヴ(ナオミ・ハリス)からは、古風だと言われます。
また、新シリーズとしてはQが本作で初登場しますが、これがベン・ウィショー演じる30歳前後の若者。旧シリーズで36年に渡ってQを演じたデズモンド・リュウェリンが引退時85歳だったこともあり、Qの若さが余計に際立つので、対照的にボンドの"古さ"が際立っています。絵画を見た時の「立派な軍艦もやがてはクズ鉄」というQの台詞もまたボンドに突き刺さる言葉になっています。
また、かつてはボンドと同じMI6のエージェントだった敵のシルヴァ(ハビエル・バルデム)もボンドと対になる存在。シルヴァは最新のサイバー技術を使う犯罪者であり、これがまた"古き者"ボンドと対照的です。
こうして、序盤から中盤にかけては、ある意味でボンドのネガティブな面(古さ)が強調して描かれる一方で、終盤にかけてはそれが変化してきます。
映画において、公聴会でMがアルフレッド・テニスンの詩「ユリシーズ」を引用するのがその転機となります。
かつて天と地を動かしたあの強さを我々は失った
だが英雄的な心は今も変わらずに持っている
時代と運命に翻弄され弱くはなったが
意志は強く戦い、求め、見いだし、屈服することはない
肉体は衰えても、不屈の精神を持った英雄。そう"古き者"ボンドを肯定し、讃えるかのような引用。この台詞をバックに、Mの元へ駆けるボンド。本作において、ボンドが真に復活する瞬間です。
そしてMとの逃避行のためにボンドが乗り換える車がアストンマーティンDB5。第3作『ゴールドフィンガー』を始めしばしば登場する往年のボンドカーです(同作のものと同様、イジェクトシートやフロント部の機関銃も内蔵)。そしてここで初めて流れるテーマ曲。「過去に戻る」というボンドの言葉と共に、古き時代が偲ばれます。
劇中でこの台詞が意味するところは、過去="ボンドの生家「スカイフォール」"。ボンドはシルヴァを迎え撃つためにスカイフォールに向かったわけですが、ボンドにとっては自らの過去に向き合うことも意味します。こうして絶妙な流れの中でタイトルの意味が明らかになり、クライマックスにかけて興奮を盛り上げます。
前作でも復讐心を抱える自らと向き合い、乗り越えたボンド。これは、復讐心でMに執着するシルヴァと対照的です。そして、最後にシルヴァを倒す武器が昔ながらの武器であるナイフであるというのも見事でした(直前に湖に落ちたことで銃を使えなくなるという流れもうまい)。
このように"古き者"としてのボンドを軸とした描き込みが、本作に深みを与えていることは間違い無いでしょう。
シリーズ初のオスカー監督
さて、007シリーズは、著名な監督がメガホンを取ることは少なく、どちらかと言えば007の監督を務めながらキャリアを築いていくパターンの方が多い印象です。そんな中で本作はオスカー監督のサム・メンデスが監督を務めています。
監督デビュー作にしてアカデミー賞を受賞した『アメリカン・ビューティー』や、次作の『ロード・トゥ・パーディション』が大好きな私としては、サム・メンデスが007を撮ると聞いた時は興奮しましたし、何より『ロード・トゥ・パーディション』では小物の悪役を演じていたダニエル・クレイグと、このような形で再びタッグを組むということは感慨深いものがありました。
サム・メンデスは撮影にこだわりの強い監督というイメージがあります。自身の監督作品のうち、3作でアカデミー撮影賞を受賞しているのは、撮影監督が素晴らしいだけではないでしょう。『アメリカン・ビューティー』では、アカデミー賞を3度受賞したコンラッド・L・ホールが撮影監督を務めていますが、同作のDVDのオーディオ・コメンタリーでコンラッド・L・ホールが引くくらい、各シーンの画面構図について語っていたのが印象的です(笑)。
鏡やガラスへの反射を効果的に使う映像が多いのはサム・メンデス監督作品の特徴の一つ。本作でも、上海のビルで敵と対峙するシーンで、ガラス窓にこれでもかとネオンを反射させたり、スカイフォールではシルヴァの一味が迫り来る様子をサイドミラーの側面に映したりといった印象的な映像が記憶に残ります。クライマックスの銃撃戦でも、アルバート・フィニー演じるキンケイドが鏡を使って敵を欺きます。
進化するアクション
007シリーズにはよくあることですが、本作のアクションはプレタイトル・シークエンスのアクションが一番でした。仲間が襲撃を受けた建物を散策する緊迫のシーン。ボンドが敵を追うために建物の外に出た瞬間に街の喧騒とBGMが入り、すぐにカーチェイスが始まります。そこからは、バイクチェイス、列車上での攻防と続くノンストップアクション。静と動のコントラストが効いていて、いきなりボルテージを上げてくれます。
列車の上でのアクションというのは、昔から使い古されたシチュエーションではあるものの、貨物のショベルカーのアクションを絡めたり、イヴの車を並走させたりといった味付けによって、新鮮さを生み出しています。
個人的には、列車上のアクションというと『ミッション・インポッシブル』のクライマックスのイメージが強いのですが、本作は他にも『ミッション・インポッシブル』シリーズを思い起こさせる部分が多いですね。本作に出てくる"NOCリスト"は同シリーズ第1作のキーアイテムでしたし、ボンドとイヴがイヤホンマイクで連絡を取り合いながら連携する様子なんかは同シリーズの定番です。
ボンドが上海のビルで敵を尾行するシーンで、エレベーターの下にぶら下がって敵を追うなんて、いかにも同シリーズでトム・クルーズがやりそうなアクションですよね。と思っていたら、本作の公開から6年後に『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』で実際にやっていました(笑)。
007はスパイ映画シリーズの元祖であり後の様々な映画に影響を与えてきたわけですが、前作ではボーン・シリーズ、本作では『ミッション・インポッシブル』シリーズの影響が感じられるなど、後輩達の良い部分も取り入れているように見えます。
こうして様々な映画が互いに影響を与え合い、進化していくというのは素晴らしいことだと思います。
シルヴァを熱演したハビエル・バルデム
ハビエル・バルデムは数々の映画賞を受賞している演技派俳優。そんな彼が本作で悪役を演じたことが本作をより良いものにしていることは間違いありません。
オスカーを受賞した『ノーカントリー』の殺し屋役でもそうでしたが、ヤバい人の演技が上手すぎます。いや、演技をしているのを全く感じさせない演技で、この人は本当にこういう人なんだと錯覚しそうになります。
シルヴァの登場シーンでは、奥行きのある画面構図での長回しで、顔が見えないくらい遠くからカメラの方に歩きながらボンドに語りかけます。彼が語る「共食いの末に生き延びた2匹のネズミ」のエピソードの秀逸さも相俟って、登場シーンからすっかり惹きつけられました。
ちなみにシルヴァが本拠としている廃墟の島のモデルは軍艦島として知られる長崎市の端島(世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産の一つ)。エンドロールでも日本語で「軍艦島・長崎市」と記載されているせいか、軍艦島がロケ地になったという誤情報も散見されますが、セット作製のモデルとなっただけでロケは行われていません。
廃墟の島のモデルとなった長崎市・端島(2011年5月撮影)
旧シリーズにつながるラストシーン
本作のラストシーンは、旧シリーズから観てきた人にとっては思わずニンマリさせられるものになっていましたね。本作でボンドに協力するエージェントとして登場した新キャラクターのイヴでしたが、彼女は途中でマロリーの助手に配置転換されます。
彼女は映画の最後に初めてフルネームで名乗るわけですが、その名前がイヴ・マネーペニー。マネーペニーと言えばMの秘書として旧シリーズの全20作に登場したキャラクター。イヴが名を明かし、マロリーが後任のMに就任することで、旧シリーズの設定が完成するのはちょっとした快感です。
しかもマネーペニーとMそれぞれの執務室の間取りや内装も旧シリーズを意識したものになっています。ショーン・コネリーやロジャー・ムーアのボンドの頃はマネーペニーの執務室の帽子掛けに、ボンドが帽子を投げるのがお約束でしたが、本作にもこの帽子掛けがしっかり登場。スーツに帽子を合わせるスタイルが流行らなくなった現代では、流石に帽子は出てこないものの、イヴがコートを掛けるという形でフィーチャーされています。
他にもQが初登場したり、アストンマーティンDB5のボンドカーが登場したり、旧シリーズの要素がふんだんに盛り込まれた本作。「ボンド、ジェームズ・ボンド」の名乗りやカジノなどのお約束のシーンもしっかり登場します。
個人的に好きなのはカジノのバーでカクテルを受け取るシーン。バーテンがシェイカーを振るところからシーンが始まり、バーテンがカクテルをグラスに注ぐと、ボンドが"Perfect."と応えます。
通常はステアして作られるウォッカ・マティーニをステアではなくシェイクして作らせるのがボンドの嗜好。注文のシーンを省略してシェイクのシーンから始めるとは、なんとオシャレでユーモラスな演出でしょう。
最後に
今回は映画『007/スカイフォール』の解説&感想でした。"古き者"としてのジェームズ・ボンドを軸として描き込まれた脚本を始め、サム・メンデス監督の演出も冴え渡った名作です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
多趣味を活かしていろいろ発信しておりますので、興味のあるカテゴリーがございましたら他の記事ものぞいていただけると嬉しいです!
はてなブログの方は、読者登録もお願いします!
↓ 次作の解説&感想はこちら
↓ その他のシリーズ作品の解説&感想はこちらから(各作品へのリンクあり)
↓ 他の映画の解説&感想もぜひご覧ください!
----この映画が好きな人におすすめ----
↓ 人気スパイ映画シリーズ
★サム・メンデス監督作品の解説&感想