人生をもっと楽しく

人生を楽しむ多趣味サラリーマンが楽しいことを発信するブログ

映画『宇宙戦争』解説&感想 スピルバーグ監督が描くSFパニック映画

【スポンサーリンク】

どうも、たきじです。

 

今回は2005年公開のアメリカ映画『宇宙戦争』の解説&感想です。2002年の『マイノリティ・リポート』に続き、スティーヴン・スピルバーグ監督とトム・クルーズがタッグを組んだ作品です。

 

 

作品情報

タイトル:宇宙戦争

原題  :War of the Worlds

製作年 :2005年

製作国 :アメリカ

監督  :スティーヴン・スピルバーグ

出演  :トム・クルーズ

     ダコタ・ファニング

     ジャスティン・チャットウィン

     ミランダ・オットー

     ティム・ロビンス

 上映時間:116分

 

解説&感想(ネタバレあり)

原作はSF小説の先駆け

本作は、突如として地球に飛来した異星人の襲来から生き延びようと試みる人々を描いたSFパニック映画。原作では地球に飛来したのは火星人という設定でしたが、本作では特に明言されていません。

 

原作は1898年に発表されたH・G・ウェルズの小説であり、SFの先駆けとも言える作品です。1938年にオーソン・ウェルズによってラジオドラマとして放送された際に、聴衆が現実のニュース放送と勘違いし、全米でパニックが起こったという話を聞いたことがある人もいるでしょう。ただし、近年の研究で、このようなパニックの発生は否定されています。

 

映画としては1953年公開のアメリカ映画『宇宙戦争』に続き、2度目の映画化となります。

 

原題は『War of the Worlds』。直訳すると"(複数の)世界の戦争"となります。地球という世界と異星人の世界の戦争ということですね。『宇宙戦争』という邦題は随分と飛躍したタイトルですが、100年以上前の原作の翻訳版から使われているタイトルなので、これが当時のセンスということでしょうね。

 

一市民の主観で描かれるSFパニック映画

私は本作を公開当時に劇場で鑑賞しました。後述するように、数々の演出の素晴らしさもあって秀逸なSFパニック映画だなと感じました。が、当時の観客の反応としては、賛否両論という感じだったと記憶しています。

 

その原因の一つは、観客が本作に"何を期待したか"の違いにあると思います。

 

『宇宙戦争』というタイトルから、異星人と正面からドンパチやり合うようなコテコテのエンターテインメント映画を想像した人には、本作は間違いなく消化不良に終わったことでしょう。なんせ本作は、"戦う"、"倒す"の映画ではなく、"逃げる"、"隠れる"の映画であり、異星人は最終的に自滅するわけですからね。

 

大統領までもが戦闘機に乗って戦う『インデペンデンス・デイ』の類の映画とは違うのです。もし本作がそれ系の映画なら、冒頭でレイ(トム・クルーズ)がクレーンを操作するシーンが伏線となって、レイがクレーンで異星人を倒しまくる映画になっていたことでしょう(笑)

 

本作は、圧倒的なマシンで襲いかかる異星人になすすべなく逃げ惑う人間を描いたパニック映画。それ故に、レイは勇敢なヒーローとしては描かれません。娘レイチェル(ダコタ・ファニング)のアレルギーのことも知らず、子守唄も歌えないダメ親父。子供を守るために必死に逃げる普通の男なのです。そういう意味では終盤の手榴弾のシーンさえ不要だったかもしれません(少しは盛り上がりが必要なのは分かるけど)。

 

レイが生き延びるために逃げる一方で、レイの息子ロビー(ジャスティン・チャットウィン)は、異星人に一矢報いようと、威勢よく軍隊に加わろうとします。こうした構図は、当時の社会情勢を思わせるものでした。2001年の同時多発テロを始めとして、当時はイスラム過激派によるテロが頻発していた時代。異星人による突然の侵略は、突然のテロ攻撃を思わせます。そして、本作のロビーの姿は、テロに対して報復を支持した当時の世論とも被ります。

 

また、こういった地球の危機を描く場合、大統領など大局的にその対応にあたる人々を描くスタイルもあれば、群像劇として様々な立場の人々を描くスタイルもあります。一方、本作の場合は、原作と同様に一市民であるレイにフォーカスし、彼の主観で描くスタイルとなっています。

 

レイの元妻メリー(ミランダ・オットー)達が無事なのかは不明。他の都市の状況についても噂が耳に入りますが、真偽は不明。オグルビー(ティム・ロビンス)が「大阪ではいくつか倒したらしい」とか言っていますが、この情報だって定かではないのです。

 

本作の場合は、レイの主観で描くこのスタイルが奏功しているように思います。何者とも分からない相手から突然の襲撃を受け、訳も分からず逃げ惑うレイの体験を観客も疑似体験することができるからです。

 

痛快にも思える結末

モーガン・フリーマンによるナレーションで語られるように、異星人たちは地球の空気を吸い、地球のものを口にしたことで、微生物(おそらくはウィルスや細菌)によって倒れます。人類がやっつけるわけではなく、ある意味で異星人達が自滅するという結末は、原作未読で鑑賞した初見時にはやや拍子抜けな印象もありました。

 

ですが、コロナ禍を経験した今改めて見ると、この結末も違って見えてきます。本作の原作が発表された1898年以前でも、人類はペストや天然痘、コレラなど、様々なパンデミックを経験してきました。

 

こうしたパンデミックに打ち勝ってきた誇りのようなものを持って本作を見ると、異星人達はあっけなく自滅したというよりも、何十億人の犠牲を払って私たちが獲得した免疫によって、異星人達を撃退したということが痛快に感じられます。

 

ナレーションもしっかりそれを語っているのですが、初見時とは響き方が違いました。

 

By the toll of a billion deaths, man had earned his immunity, his right to survive among this planet's infinite organisms.

数十億の犠牲の末に、人類は免疫を獲得し、この惑星の無限の有機体の中で生き残る権利を手に入れた。

 

And that right is ours against all challenges.

そして、その権利は何者にも脅かされることはない。

 

For neither do men live nor die in vain.

無駄な生も死もないのだ。

 

あるいは、上述のように、本作の原題が、"地球という世界と異星人の世界の戦争"を意味しているとすれば、人間が日頃対立しているウィルスと共闘して異星人を撃退したと見ることもできますね。これはこれで胸熱ですね。

 

映画を面白くする演出

私が本作を好きな要因の一つが、スピルバーグ監督による様々な演出の素晴らしさ。退屈する間を与えずに緊張感を持続する演出のおかげで、2時間があっという間に過ぎてしまいます。

 

スピルバーグ監督が『ジョーズ』や『ジュラシック・パーク』のような本格スリラーを久々に撮ってくれたことも嬉しかったですし、彼らしい演出が溢れていましたからね。

 

①不安を掻き立てる演出

異星人が徐々に活動を開始する序盤はかなり完成度が高いと思います。怪しい雲行き、吹き荒れる風、そして激しい雷鳴。異常気象が観客の不安をあおります。


何より圧巻なのはトライポッド登場シーン。交差点の地割れが少しずつ広がり、やがてそれが建物にまで至り、激しくそれを破壊します。そして地中からゆっくりと姿を見せたトライポッドが、人を一瞬にして粉々にする光線によって人々を無差別に襲い始め、人々はとにかく必死に逃げ惑うのです。これには本当に圧倒されて、鳥肌が立ちましたね。高架線が一気に吹っ飛ぶカットなんかも素晴らしいです。

 

また、異常気象のシーンにしても、トライポッドによる襲撃シーンにしてもそうですが、音響効果が特に素晴らしく、劇場で見た時に感動したのを覚えています。迫力があるのはもちろん、トライポッドの放つ不気味な音は恐怖や不安をかきたてる絶妙な音になっています(『未知との遭遇』の交信音にも似てる)。

 

襲撃シーンでは、ジョン・ウィリアムズによる音楽も相変わらずいい仕事をしています。ジョン・ウィリアムズというと、『スター・ウォーズ』、『インディ・ジョーンズ』、『ジョーズ』など、耳に残るテーマ曲を数々生み出してきたレジェンドですが、本作では表に出過ぎない音楽で、緊張感や恐怖を演出しています。

 

その後のシーンでも、異星人の侵略に対する絶望感を際立たせる演出が満載。例えば、川に大量の死体が流れてくるのをレイチェルが目撃するカット。燃え盛る列車が踏切を駆け抜けていくカット。トライポッドの光線で殺された人々の衣服が空から舞い降りてくるカットなどです。

 

②見せない演出

スピルバーグ監督は過去に『激突!』(日本では劇場公開されたが元はテレビ映画)や『ジョーズ』、『未知との遭遇』などでもそうだったように、大事なものをなかなか(あるいは最後まで)"見せない演出"が冴えています。異星人の姿をなかなか見せないのもそうですが、印象的なのは、丘の向こうで繰り広げられる異星人と軍隊との激闘を見せないところ。丘の向こうに戦闘機や戦車が次々と送り込まれた後、炎上した車両が引き返してきて、やがて激しい炎とともにトライポッドが現れる、このシーンは圧巻です。


息子達の家の地下で寝ているシーンで、地上で何かが起こっているのを見せず、小さな窓から入り込む激しい光と爆音だけを描写しているのもそう。このシーンは、夜が明けて外に出ると飛行機が墜落しているという衝撃的なオチがつきます。ちなみにこの墜落した飛行機のセットはユニバーサル・スタジオ・ハリウッドで展示されていて、スタジオ・ツアーで見ることができます。

 

③効果的な長回し

レイ達が修理屋に置いてあった車を奪って逃げるシーンでは、アルフォンソ・キュアロン監督ばりの長回しが強い印象を残します。実に約2分半の間、カメラが車の周りを自由に動き回りながら、町を離れていく彼らをワンカットで映し出します。

 

トライポッドから少しでも離れようと急ぐ彼らの様子がライブ感たっぷりに描かれており、ここでの長回しは極めて効果的に感じられました。

 

④オマージュ

それから忘れてはならないのが、廃屋の地下で異星人の偵察の目から身を隠すシーン。このシーンでは『ジュラシック・パーク』のキッチンでヴェロキラプトルから身を隠すシーンを思い出した人は多いでしょう。スピルバーグ監督によるセルフオマージュのようなシーンですよね。『ジュラシック・パーク』では、少女をキッチンのステンレス板に反射させる演出がありましたが、本作にも鏡を使った演出があります。

 

それから、いくつかのシーンではヒッチコックの『』が思い起こされました。本作では異星人による侵略の前兆を異常気象によって徐々に盛り上げていますが、『鳥』でも鳥が人を襲い始める前兆として鳥達の奇妙な行動を少しずつ重ねることで不安を煽っていました。異星人による突然の無差別な襲撃も、鳥の襲撃と印象がかぶります。

 

フェリーのシーンで、鳥の群れを見て異星人の襲撃に気付いたり、鳥がトライポッドに止まっているのを見てシールドが切れていることに気付いたりと、映画全体で鳥を印象的に見せているのも『鳥』へのオマージュの一環、というのは考えすぎでしょうか?

 

異星人の造形は平凡?

素晴らしい演出の数々に魅せられた一方で、満を持して姿を現す異星人の造形は平凡にも感じられました。まあ、こういうのって正解はないと思うのですが、少なくとも新しさは感じませんでした。

 

3本足で歩くというのは面白いですけどね。なるほど、だからトライポッドは3本足なのかと納得してしまいます。人間がガンダムを人型に造るのと同じですね(笑)

 

ちなみに原作の火星人は、大きな頭と触手のような手足を持ったタコ型。我々が宇宙人と聞いて思い浮かべるこのイメージは本作によって作られたものです。

 

最後に

今回は映画『宇宙戦争』の解説&感想でした。ヒーローではなく一市民の主観で描かれ、彼らの体験を疑似体験できるSFパニック映画。スピルバーグ監督らしい演出が満載でとても楽しめる作品でした。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

多趣味を活かしていろいろ発信しておりますので、興味のあるカテゴリーがございましたら他の記事ものぞいていただけると嬉しいです!

はてなブログの方は、読者登録もお願いします!

 

↓ 他の映画の解説&感想もぜひご覧ください!

 

----この映画が好きな人におすすめ----

↓スピルバーグ作品へのオマージュ溢れるSF映画

↓主人公の主観映像で描かれるSFパニック映画