どうも、たきじです。
今回は2006年公開の映画『007/カジノ・ロワイヤル』の解説&感想です。
007シリーズとしては、前作『007/ダイ・アナザー・デイ』に続く第21作。また、6代目ジェームズ・ボンドとしてダニエル・クレイグを迎えてリブートされた新シリーズ第1作となります。
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作品情報
タイトル:007/カジノ・ロワイヤル
原題 :Casino Royale
製作年 :2006年
製作国 :イギリス、アメリカ、チェコ、ドイツ
監督 :マーティン・キャンベル
出演 :ダニエル・クレイグ
エヴァ・グリーン
マッツ・ミケルセン
ジャンカルロ・ジャンニーニ
カテリーナ・ムリーノ
シモン・アブカリアン
イザック・ド・バンコレ
イェスパー・クリステンセン
イワナ・ミルセヴィッチ
トビアス・メンジーズ
クラウディオ・サンタマリア
セバスチャン・フォーカン
ジェフリー・ライト
ジュディ・デンチ
上映時間:144分
解説&感想(ネタバレあり)
シリーズ第21作にしてリブート
007シリーズは、ストーリー自体は基本的に一作で完結する形式。ただし、ボンドの結婚や妻の死など、個々の作品での出来事は後の作品でも言及されるなど、ボンド俳優が変わっても作品は繋がっているという設定でした。MやQ、マネーペニーなどの主要なキャラクターを長らく同じ役者が演じたことも、作品の繋がりを感じさせました。
それが本作で遂にリセット。ダニエル・クレイグ演じるジェームズ・ボンドが007になる前から始まるストーリーで、シリーズがリブートされました。M役はジュディ・デンチが引き続き演じていますが、それ以外のキャストは一新されています。
『カジノ・ロワイヤル』は原作小説の第1作でもあるので、リブートには相応しい作品と言えますね。1967年に同名の映画が公開されていますが、同作は同じ小説を原作に007のパロディとして制作されたコメディ映画ですので実質的に初めての映画化と考えていいでしょう。
実力で評価を覆したダニエル・クレイグ
さて、本作を語る上で真っ先に言及すべきはダニエル・クレイグのことでしょう。原作におけるボンドの設定とは異なる金髪で、過去のボンド俳優ほど長身でもなければ、エレガントな雰囲気も持ち合わせていない。そんなクレイグは、ボンド役に決まった当初から一部から猛烈なバッシングを受けました。
私も、クレイグと言えば『ロード・トゥ・パーディション』で演じた小物感たっぷりの悪役のイメージしか持っていなかったので、「あの悪役顔の役者がボンド?」という感じでした。しかし、その印象は映画が公開されるとがらりと変わりました。
シリアスな作風の中で、クールで、人間的で、ややダーティなキャラクターがただならぬ魅力を放つクレイグのボンドは、私を含め、世界中の人々を魅了しました。猛烈なバッシングを実力で覆したということも含めてかっこよすぎて、すっかりクレイグのファンになってしまいましたよ。
ダニエル・クレイグのボンド像
クレイグの演じるボンド像は、プレタイトル・シークエンスでの登場シーンから、私達を惹きつけます。ボンドが、00に昇進するために必要な"2度目の殺し"を行うシーンです。
ターゲットを待ち伏せし、暗闇から現れたボンドは、悪役かと間違えてしまいそうな雰囲気を醸し出しています(モノクロの映像がまたハマっていまる)。"1度目の殺し"をフラッシュバックで挟みながら交わされる会話。ボンドはターゲット目掛けて、真顔で躊躇なく引き金を引き、「(2度目の殺しは)ずっと楽だ」と言い放ちます。
ロジャー・ムーアのボンドのようなコミカルかつエレガントなイメージとは対極にあるような、シリアスかつ荒削りなイメージが非常にセンセーショナルです。
このシーンは、フラッシュバックで描かれる"1度目の殺し"で、ボンドがターゲットを撃ち抜くところでガンバレル・シークエンス(銃口越しにボンドを捉えたカメラに向かって、ボンドが銃を放つ)に切り替わるのが、また見事に決まっています(過去作では、ガンバレル・シークエンスの後に映画が始まる)。
クレイグのボンド像が際立つシーンとしてもう一つ印象的なのが、ボンドが旅客機の爆破テロを阻止しようと奮闘するシークエンス。ボンドはテロリストとの格闘の末、旅客機を爆破するための爆弾をテロリストの体に密かに付け替えています。それを知らずに、勝ち誇った顔でボンドを見ながら爆破スイッチを押すテロリスト。それを見たボンドは悪そうな顔でニヤリと笑います。
このシーン。ショーン・コネリーのボンドならしかめ面、ロジャー・ムーアのボンドなら少しおどけた困り顔、ピアース・ブロスナンのボンドなら皮肉の効いた一言台詞を決めるところでしょう。しかしここで悪そうに笑うのがクレイグのボンドなのです。シリアス路線のボンドというと、4代目のティモシー・ダルトンのボンドも同様でしたが、それと比較してもかなりダーティな印象が際立つシーンでした。
多様なアクションシーン
さて、シリーズの他の作品に違わず、アクションシーンは本作の魅力の一つと言えるでしょう。ボンドは世界各地を飛び回りながら、様々なシチュエーションで多様なアクションを見せてくれます。
タイトルバック後のマダガスカルのシーンでは、パルクールを取り入れた派手な追跡劇で、序盤から一気に盛り上げます。このシーンでボンドに追われる男を演じているのパルクールの第一人者であるセバスチャン・フォーカン。やはり身のこなしがカッコよく、見入ってしまいます。
第17作『ゴールデンアイ』の戦車を思い出させる重機での突撃や、高所での手に汗握るアクションを含め、クレイグ=ボンドの挨拶代わりのアクションとして十分過ぎる出来映えでした。
上でも触れたマイアミの空港のシークエンスでは、テロリストを尾行するシーンの緊張から一気に開放されたかのような派手なアクションシーンに魅せられます。爆破テロのターゲットである旅客機めがけて疾走する自動車のスピード感と、爆弾の存在が生む緊張感がたまりませんね。
ヴェネツィアでのアクションシーンは、上述の2つのシーンに比べると興奮がやや劣るでしょうか。とは言え、銃撃や格闘による敵との戦い主体のアクションにヴェスパーの救出という要素も重なって、興奮のクライマックスとなっています。
サスペンス要素とドラマ性
このように、本作はアクションシーンが大きな魅力ですが、アクション一辺倒になっていないのがまた素晴らしいところ。本作はサスペンス要素やドラマ性も持ち合わせています。
例えば、カジノ・ロワイヤルにおけるポーカーゲームでは、かなり時間を割いてサスペンスフルな駆け引きが描かれています。
ここでプレイされているポーカーは、日本人に馴染み深いファイブカード・ドロー(5枚の手札でハンドを作るクローズド・ポーカー)ではなく、現在世界的に主流になっているテキサス・ホールデムと呼ばれるタイプ。手札2枚と、全プレイヤー共通の札(最大5枚)でハンドを作ります。
このシークエンスでは、相手との心理戦となるテキサス・ホールデムの醍醐味がそのまま映し出されているように感じられます。それは、ダニエル・クレイグはもちろんのこと、ル・シッフルを演じたマッツ・ミケルセンの演技力の賜物でしょう。
さらには、味方の裏切りという要素が加わることで、より緊張感を高めています。裏切ったのはマティスだということで物語が進みますが、実際に裏切り者だったのは恋人を人質に取られていたヴェスパーでした。
ボンドとヴェスパーの関係は、作品を通じてかなり丁寧に描き込まれていました。出会った直後の会話での知的な応酬、敵の襲撃の後のシャワー室での接近、ポーカー後のレストランでの会話。それらを通じて、2人が徐々に距離を縮め、惹かれあっていく過程が説得力を持って描かれていたからこそ、ヴェスパーの裏切りには意外性がありました。ポーカーゲームと同様の駆け引きが、現実にも行われていたというのもうまいですね。
本作でヴェスパーを演じたエヴァ・グリーンは美しさと知性が溢れていて、とても魅力的でした。私が初めてエヴァ・グリーンを見たのは、本作の前年に公開されたリドリー・スコット監督の『キングダム・オブ・ヘブン』でしたが、正直言って、同作ではいまいち輝いていなかったように見えました。そのマイナスイメージを見事に払拭する演技でした。
シリーズのお約束
リブートされて作風も一新された本作ですが、シリーズのお約束もたっぷりと描かれています。
原作小説があるので当然と言えば当然ですが、国際的舞台、カジノ、タキシード、マティーニといった要素が、作風が変わっても007らしさを演出しています。上述の通り、少し趣向を変えたガンバレル・シークエンスも然り。
また、Mやフェリックス・ライターらお馴染みのキャラクターも登場します。一方で、過去20作のほとんどに登場したQとマネーペニー(第8作『死ぬのは奴らだ』にQが登場しない以外は全作に登場)は、本作には登場しません。これは次作以降に持ち越しとなります。
さて、シリーズのお約束の描き方として、何より素晴らしいのはラストシーンでしょう。
今回の事件の裏で糸を引いていたミスター・ホワイトを銃撃するボンド。倒れ込み、ボンドを見上げるホワイトに対し、
"The name’s Bond… James Bond"
そして、間髪入れずにテーマ曲が流れ出し、エンドロールが始まります。
お決まりのフレーズでの名乗りと、かの有名なテーマ曲を誰もが待ちわびる中、最後の最後で、最高に熱いシチュエーションでやってくれました。これは痺れましたね。
最後に
今回は映画『007/カジノ・ロワイヤル』の解説&感想でした。独自のボンド像を作り上げ、前評判を実力で覆したダニエル・クレイグのカッコ良さ、多様なアクション、サスペンス、ドラマ性と、非常に見どころの多い作品。シリーズ最高傑作との声も納得の一本です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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