どうも、たきじです。
今回は、スタジオジブリのアニメ映画『魔女の宅急便』の解説&感想です。スタジオジブリ設立後の宮崎駿監督作品としては、『天空の城ラピュタ』、『となりのトトロ』に続く3作目となります。
同名の児童文学を原作として、映画独自の設定やキャラクター、ストーリー展開も含んだ、オリジナリティ溢れる作品に脚色されています。2014年に実写映画が公開されましたが、こちらも原作の児童文学を実写で映画化したものであり、本作の実写化ではありません。
ちなみに"宅急便"はヤマト運輸の登録商標で、普通名称は"宅配便"。原作では宅急便がヤマト運輸の商標であることを知らずに付けられたタイトル(ヤマト運輸は無関係)でしたが、本作の製作にあたってはヤマト運輸がスポンサーになっています。
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作品情報
タイトル:魔女の宅急便
製作年 :1989年
製作国 :日本
監督 :宮崎駿
声の出演:高山みなみ
佐久間レイ
戸田恵子
山口勝平
上映時間:102分
解説&感想(ネタバレあり)
少女の成長物語
本作の主人公は魔女の少女キキ。ほうきに乗って空を飛び、相棒のネコと話をする魔女の少女が主人公だと聞くと、すごくファンタジーな物語に聞こえますが、本作が描くのはキキの人間としての成長物語。一見特殊な物語に見えて、多くの人が共感できる物語になっています。
本作のストーリーを一般化した表現で説明してみましょう。
親元を離れて、
見知らぬ地で暮らし始め、
都会の冷たさに孤独感を覚え、
やがて始めた仕事に四苦八苦し、
うまくやり遂げたと思えた仕事も報われないこともあり、
時にはプライベート犠牲にし、
仕事の大変さ知り、
友人(恋人)関係に悩み、
精神的な不調は仕事にも影響を与え、
それでもそれを乗り越えて、
成長していく…。
どうでしょう?社会人の方なら経験したことのあることが多いのではないでしょうか。そうなんです。本作は児童文学を原作とした子供向け作品のように見えて、いろいろ人生経験を積んだ大人の方が、心を揺さぶられる作品なんです。
私も例に漏れません。家に本作のビデオがあったので、私は子供の頃に何度も本作を見ていたのですが、大人になってみて初めて見えてくることも多いのです。もちろん子供の頃も、それはそれで楽しく見ていましたけどね。
丁寧な心理描写
本作は、非常に丁寧に、キキの心理描写がなされています。キキの表情や行動、キキの身に起こる出来事によって、彼女の内面を描きます。ジジがいるので、キキに台詞を喋らせることで心情を表現することもできるわけですが、台詞で直接的に表現することは少ないのです。
例えば、町を訪れたキキが疎外感を感じるシークエンス。キキの挨拶に対し気まずそうに立ち去る人々、交通マナーを咎める警官、身分証の提示を求めるホテルマン。それらに対する不安、焦り、怒り、悲しみといったキキの心情は、キキの表情や、食事が喉を通らないことで描写されます。
その後、キキはおソノさんの家に下宿することになるのですが、この時、キキのラジオから流れる音声に注目。作品冒頭、キキが家にいた時は日本語だったのが、ここでは英語になっています。心理描写とは違いますが、見知らぬ土地に来た彼女の状況を際立たせる演出としてうまいと思いました。
さて、丁寧な心理描写という点で、特筆すべきは終盤。キキの魔法の力が弱まり、空を飛ぶこと、ジジと話すことができなくなるところでしょう。
これは、仕事とプライベートでの悩みによる精神的不調からくるスランプと考えられます。
おばあさんからの宅急便の依頼に対し、機転を効かせて古い窯でパイを焼き上げ、雨の中必死に届けたのに、受取人からは冷たくあしらわれてしまいます。
トンボと仲良くなれたのに、トンボにはたくさんの親しい友人がいることを目の当たりにして嫉妬心からその場を去ってしまう。そんな素直になれない自分にうんざりします。
そんな経験を通じた彼女の心理を、魔法の力が弱まるという出来事で表現しています。これは子供の時にはまったく理解できませんでした(笑)。こうしたニクい表現が本作のうまいところです。
キキにとって、魔法の力を失うということはアイデンティティの喪失。仕事ができなくなる以上に深刻な問題です。そんな中で、絵描きのお姉さんとの交流は重要なシークエンスです(子供の頃は正直退屈でした)。
お姉さんも絵が描けなくなるという経験があると言います。
「それまでの絵が誰かの真似だって分かったのよ。どこがで見たことがあるってね。自分の絵を描かなきゃって。」
これはクリエイターらしい表現ですね。宮崎駿の経験が投影されているのかもしれませんね。
キキは恋をしていたか?
さて、キキの精神的不調に、恋の病が含まれていたか、すなわちキキがトンボに恋心を抱いていたかは意見が分かれるところかもしれませんね。それを表す直接的表現はありませんから。ですが私は、キキはトンボを異性として意識していたと思います。
上記の、キキが嫉妬心を抱くシーンでは、単なる友達であるだけでなく女の子であったことが、より嫉妬心を大きくしたと思います(いかにもパリピな面々であることも含め)。
また、このシーンより少し前に、キキがトンボと自転車に乗るシーンがありますよね。このシーンで自転車がふわっと浮き上がります。これは、キキのウキウキした気持ち、恋の高揚感のようなものが彼女の魔法を誘発したと解釈しています。自転車にプロペラをつけただけでは物理的に浮かぶはずがないですからね(プロペラが前に進む推進力を生み、翼で揚力が生まれることで飛行機は浮かびます)。
それから、キキがトンボと仲良くなる頃から、ジジが隣の家の白猫と仲良くなり、やがて恋仲になる描写。キキの相棒であるジジが恋猫を見つけるというのは、キキがトンボという相手を見つけたことの示唆と考えられます。
キキは最終的にこのスランプを乗り越え、空を飛ぶ力を取り戻すわけですが、ジジとは話せないままです。これも、キキがここまでの経験を通じて少女から大人(というと言い過ぎかもしれませんが)へと成長したことを間接的に描写していると考えられます。
子供の時は、ジジと話せないままということに、もやっとした寂しさを覚えたものです。子供向けには、再びジジと話せるようになる結末の方がすっきりするのは間違いないでしょう。でも、そうしない。それがいい。繰り返しになりますが、本作はキキの成長物語ですから。
美しい町と音楽
本作の舞台となる海沿いの町、本当に美しくていい町じゃないですか?ヨーロッパを中心として、各地の街並みを組み合わせたということですから、日本人が憧れるヨーロッパの風景になるのは当然と言えば当然か。
海があって、美しい都会の街並みがあって、シンボルとなる時計塔があって、路面電車が走り…。高低差のある街並みもいい感じ。
そして久石譲の音楽。異国情緒あふれるメロディによって、この町の雰囲気をさらに良くしています。
音楽と言えば、本作の主題歌として使われたユーミンの曲も忘れてはなりません。故郷を飛び立ったキキがラジオを付けると『ルージュの伝言』が流れ出してタイトルバックに入るオープニングは、最高に決まっています。
飛行シーンの爽快感
宮崎駿監督作品には付き物の飛行シーンですが、本作においては、魔女の飛行という特殊な形態が描かれます。映画を見る我々がそうであるのと同じように、映画の登場人物達も憧れの眼差しでキキの飛行を見上げるのがいいですね。上述の通り、舞台となる町の美しさと久石譲の音楽も相まって、飛行シーンは毎度映えるシーンになっています。
また、本作では"地上移動"が飛行シーンとある意味で対比的に描かれています。
トンボの自転車で遠くまで来た道を、キキははるばる歩いて帰ります。また、飛べなくなったキキが絵描きのお姉さんの家に行く際には、バスとヒッチハイクで車を乗り継いで移動します。序盤にほうきでひとっ飛びだったのとはえらい違いです。
これらのシーンで、地上移動の大変さを無意識に印象付けられていることで、飛行シーンの気持ちよさが際立って見えます。
そういう意味では、キキがデッキブラシで再び飛ぶクライマックスは、完全に自由に飛び回るところまで完全復活した方が、爽快感という意味ではさらに際立っていたでしょう。
しかし、何度も繰り返すように、本作はキキの成長物語。大切な人のために集中して、デッキブラシを必死にコントロールして飛ぶ、最後までもがき続ける姿こそ重要なのです。
トンボを助けるために飛ぶキキをテレビの前で応援する人々、「あの子、飛んだわ!」と歓喜するおソノさんに、みんな必ず感情移入するはずです。
「私、この町が好きです」
直接的な表現ではなく、間接的な表現でキキの内面を描く本作ですが、エンディングでは直接的に、両親への手紙という形でキキの心情が吐露されます。
お父さん、お母さん
お元気ですか。私もジジも
とても元気です。仕事の方も
なんとか軌道にのって、少し
自信がついたみたい。
落ち込むこともあるけれど
私、この町が好きです。
台詞として読まれるのはここまでですが、画面に映る手紙には、この後も町の人のことや友達のことが書かれています。
様々なことを経験した上で、「私、この町が好きです」と言えるようになったこと。親元を離れたキキが精神的に独り立ちしたことが、この台詞から感じとれます。
やはり、大切な人が故郷から都会に出るのを見送った人が心配することは、
元気でいるか
街には慣れたか
友達できたか
寂しかないか
お金はあるか
(『案山子』©︎さだまさし )
なわけですよ(笑)
この手紙を読むと、これらの心配は無用で、安心して良いことが分かります。キキを見守る親の目線で本作を見ると、これ以上ないハッピーエンドと言えるでしょう。
最後に
今回は映画『魔女の宅急便』の解説&感想でした。子供が楽しめることはもちろん、大人になってから見ると新たに見えてくることも多い作品です。そういう意味では子供と一緒に見るのに適した作品と言えるでしょうね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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