映画『ジョーカー』解説&感想 社会に見捨てられた男の狂気

どうも、Takijiです。

 

今回は映画『ジョーカー』の解説&感想です。『バットマン』に登場するヴィランのジョーカーにフォーカスした人間ドラマです。

 

作品情報

タイトル:ジョーカー

原題  :Joker

製作年 :2019年

製作国 :アメリカ

監督  :トッド・フィリップス

出演  :ホアキン・フェニックス

     ロバート・デ・ニーロ

     ザジー・ビーツ

     フランセス・コンロイ

 上映時間:122分

 

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解説&感想(ネタバレあり)

一人の男にフォーカスした骨太な人間ドラマ

"ジョーカー"は人気アメコミ『バットマン』に登場するキャラクターで最も人気のヴィラン(悪役)。映画でも、バットマン映画が製作されるたびに登場し、様々な俳優が演じてきました。本作はそのジョーカーを主役に据えた映画です。

 

ヴィランを主役に据えた映画は『ヴェノム』(『スパイダーマン』の人気ヴィラン)がありますが、本作が『ヴェノム』とも異なるのは、SFやファンタジーといったコミック要素を完全に排除し、ジョーカーとなるアーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)という男にフォーカスした骨太な人間ドラマだということです。ジョーカーのトレードマークであるの白い顔、緑色の髪、派手なスーツは、元来やや漫画的な要素ですが、本作ではピエロとして、あるいはコメディアンとしてのコスチュームに過ぎず、ドラマの邪魔をすることはありません。


それゆえ、本作を鑑賞する上で『バットマン』やジョーカーについての予備知識が皆無であっても、本作が描く本質的な部分を理解するには全く支障がないのです。

 

社会に見捨てられた男の狂気

アーサーは精神を病み、発作的に笑いが止まらなくなる症状を患っています。貧困の中、年老いた母の世話をしながら暮らしており、コメディアンを夢見ながら続けているピエロの仕事も上手くいかず、やがてはクビになります。


彼は三人の男に暴行を受けた際に、突発的に彼らを殺してしまい、やがてその高揚感に包まれます。その後、憧れのコメディアンに自分のステージを馬鹿にされ、さらには自分の悲しい出自を知ってしまったことで、彼を包んだ絶望感が彼をさらなる狂気に駆り立てます。


本作は、こうしてアーサー・フレックが"ジョーカー"になり、格差社会に不満を抱える暴徒たちのシンボルとして讃えられていく様を、スリリングに描きます。


ホアキン・フェニックスの完璧な演技

本作のホアキン・フェニックスの演技は、近年で随一の名演ではないでしょうか。役作りでかなり痩せて人相がいつもと違うせいもありますが、アーサーの憂いを帯びた笑いや、彼が醸し出す不安定で危うい雰囲気は、"ホアキン・フェニックスが演じている"ことを忘れさせるものでした。


ピエロ姿で踊る仕事をしている彼が、踊りで自己表現する様子も実に多様です。初めての殺人の後、公衆トイレに駆け込んで一人無表情で踊る姿。メイクと衣装を整え"マレー・フランクリン・ショー"へ向かう途中、階段で高揚して踊る姿。そしてラスト、車の上に立ち、暴徒たちの前で恍惚の表情で踊る姿。それぞれが、アーサーの心の動きを巧みに表現しています。


また、冴えない中年男のアーサーがジョーカーになることで、急に"イケてるヴィラン"になるわけではなく、ジョーカーになって暴徒たちの心を掴んでもなお、どこか垢抜けない感じがまた絶妙なバランスで表現されているように思います。この、最後までアーサーの"イタい"感じが残る演技がいいのです。


ジョーカーが"イケてるヴィラン"として登場する『ダークナイト』とは、描き方が根本的に違うわけです。あの映画ではあの演じ方がパーフェクトだし、本作ではこの演じ方がパーフェクトだと言えるでしょう。ジョーカーがテレビカメラの前でマレーを殺害した後、カメラの前に駆け寄って視聴者に語りかけますが、台詞を言い切る前に放送を切られてしまいます。これが本作のジョーカーなのです。


『モダン・タイムス』の影響

本作のストーリーは、マーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』や『キング・オブ・コメディ』の影響を受けているそうです。両作品で主演を務めたロバート・デ・ニーロがマレー・フランクリン役で出演しているのも偶然ではないでしょう。

 

言われてみれば、本作は両作品をくっつけたような話ですが、観ている時は気付きませんでした。それよりも、私が映画を観ている時に強く感じたのは、チャールズ・チャップリンの『モダン・タイムス』の影響です。劇中でも映画館でこの映画を見るシーンが出てきますし、テーマ曲とも言える"Smile"が本作でも使われていたので、意識していることは間違いないでしょう。


『モダン・タイムス』は、機械文明や資本主義の中で、労働者が歯車の如く扱われる社会を痛烈に風刺したコメディ映画です。チャップリン演じる男は、貧しく、孤独の身で、精神を病みます。デモ隊のリーダーと間違われて逮捕され、仕事も失います。本作のアーサーの境遇と共通するところがかなり多いです(細かいところで言えば、護送車が事故を起こして脱出するのも同じです)。


アーサーは「自分の人生は悲劇だと思っていたが、喜劇だと気付いた」と言います。これもチャップリンの有名な言葉「人生はクローズアップで見れば悲劇だが,ロングショットで見れば喜劇だ」を思い起こさせます。


チャップリンは、一見悲劇に思える貧困や病を俯瞰して描くことで笑いに変えて見せました。また、チャップリン演じる男は、苦しい境遇にあって、身なりはひどくても、常に紳士としての威厳を失いません。


一方、本作のアーサーは、悲劇的な境遇を自ら喜劇だと笑い飛ばし、半ば自暴自棄とも言える形で、狂気に走っていきます。これは同じような境遇にある二人の対比と言えるかもしれません。


また両作品とも、"笑顔"が一つのキーワードとも言えます。『モダン・タイムス』のラストシーンで、男はヒロインの少女と共に去っていきます。その際、彼は満面の笑みとジェスチャーで、彼女に笑顔を促します。そして、笑顔の二人は、どこまでも歩いていきます。ここで流れるメロディは、チャップリンが作曲し、後に歌詞が付けられた"Smile"という曲です。


一方で、本作はどうでしょうか。ラストで、暴徒たちに讃えられる中、ジョーカーは口から出た血を両手の指先に付け、口が裂けたように顔に塗りつけて笑顔を作ります。『モダン・タイムス』のラストの笑顔とは対極にある、あまりに狂気に満ちた笑顔です。


『モダン・タイムス』はチャップリン最後のサイレント映画であり、彼が長年演じてきた"浮浪者"が登場する最後の作品です。それまでの作品のラストシーンでは、独りで去っていくのがお決まりでしたが、『モダン・タイムス』では初めてヒロインと共に去っていきます。


チャップリンと違って、本作のジョーカーは孤独です。バットマンという"遊び相手"が見つかるのは、もう少し先のことになります…

 

最後に

今回は映画『ジョーカー』の解説&感想でした。アメコミのキャラクターを基にして、ここまで見応えのあるドラマを見せてくれるとは思いませんでした。本当に素晴らしい映画だと思います。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

 

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