映画『アフタースクール』解説&感想 巧みなミスリードが生む衝撃!

どうも、Takijiです。

 

今回は映画『アフタースクール』の解説&感想です。巧みなミスリードが、見るものを翻弄し、衝撃を与える作品です。

 

作品情報

タイトル:アフタースクール

製作年 :2008年

製作国 :日本

監督  :内田けんじ

出演  :大泉洋

     佐々木蔵之介

     堺雅人

     田畑智子

     常盤貴子

     北見敏之

     奥田達士

     ムロツヨシ

     伊武雅刀

 上映時間:102分

 

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解説&感想(ネタバレあり)

あらすじを時系列で整理

本作は、内田けんじ監督の前作『運命じゃない人』のように時制をいじった構成ではないですが、観客をミスリードする仕掛けが多数施されていて、途中ですべてをひっくり返すので、やや混乱しがち。まずは、あらすじを時系列で整理してみます(後になって明らかになることも、起こったタイミングで記載しています)。

 

[映画のメインストーリーより前の出来事]

・転校することになった美紀が、手紙を神野に渡すよう木村に頼む

・神野は放課後に美紀を探すも会えず(美紀は早退しており、夜逃げ同然に引越し)

・美紀の親はヤクザの片岡(伊武雅刀)からの借金を残して亡くなる

・大人になった美紀(常盤貴子)は片岡の女になり、借金返済のため片岡の高級クラブ『HEAVEN』でホステス"あゆみ"として働きNo.1になる

・片岡は梶山商事の社長の大黒(北見敏之)に仕事を代行させていることを美紀に喋る

・美紀が妊娠し、片岡は金を渡して堕胎を迫る

・梶山商事で働く木村(堺雅人)が接待で『HEAVEN』を訪れ美紀と再会する

・美紀が片岡の元から逃げ出し、木村と神野(大泉洋)に助けを求める

・美紀にこれまでの経緯を聞いた神野が、警察官の(田畑智子)に相談する

・美紀は、警察に梶山商事と片岡の関係を話し、重要参考人になる

・美紀は神野のマンションに住み、周辺を多数の警察官に警護される

・神野は木村と共に借りた部屋に住む

・木村は警察に協力し、仕事をしながら梶山商事のことを調べる

・神野の妹は、片岡が大黒に金を受け渡すのに使っているホテル(梶山商事本社の隣)を調べ始める

・大黒は、ホテルでよく見かける神野の妹を警察官ではないかと疑う

・木村は、半年間の調査の末、大黒が片岡との取り引きを行う日取りを掴む


[映画のメインのストーリー]

・取り引き2日前、木村は本社の隣のホテルで神野の妹と落ち合い、大黒のスケジュールを探る(これを梶山商事の社員に見られて写真を撮られる)

・写真を見た大黒の側近の唐沢(奥田達士)は、木村が警察の犬だと疑う

・唐沢は木村の身柄を押さえるため、木村探しを探偵の北沢(佐々木蔵之介)に依頼する

・木村が神野の妹のマンションに立ち寄り、ホットケーキを食べる(防犯カメラに映る)

・木村の乗ってきた車(神野所有)がレッカーされる

・翌朝、美紀が出産する

・北沢が同級生の"島崎"になりすまして神野に接触し、木村探しを手伝わせる

・北沢が大黒と片岡の繋がりに気づく

・北沢の部下が裏切り、北沢が片岡からの借金を踏み倒して逃げようとしていることを片岡に告げ口する

・北沢は、片岡が逃げた女を探していることを知る

・大黒がホテルの部屋に置かれた片岡からの金を受け取る

・神野が無線で北沢から指示を受けながら個室ビデオ店に入店し、かつて『HEAVEN』で働いていたメグから情報収集する

・神野は北沢からの指示に反し、メグに美紀の写真を見せて質問することで、写真の女(神野の妹)が片岡の女"あゆみ"だと北沢に誤解させる

・神野がレッカーされた車を受け取りに行く

・車内にあった木村の携帯電話を北沢が密かにすり替えて奪う

・神野の妹のマンションの防犯カメラ映像から、北沢は木村があゆみとできている(梶山商事の一社員が片岡の女に手を出した)と誤解する

・北沢が唐沢に連絡し、女を見つけた料金も払わないと、片岡に直接連絡するとゆする

(この時、唐沢は料亭で会食中。政治家の江藤の姿があり、つながりが示唆される)

・唐沢は写真の女が警察官ではなく片岡の女と誤解する

・唐沢は北沢があゆみをみつけたと片岡に連絡する

・神野が帰宅し、木村に携帯電話を渡す

・神野は携帯電話がすり替えられたことに気づく

・北沢が木村の携帯電話で留守電を聞き、自分が"島崎"ではないことが神野にバレていたことに気づく

・神野と木村は、北沢が介入することで取り引き現場を押さえる計画が狂い、焦る

・北沢が片岡につかまる

・神野が妹のマンションに入り、あゆみを殺したと見せかける写真を撮る

・マンションに片岡の手下が入れないように、事件に見せかけて警察が取り囲む

・木村が大黒に電話をかけ、資料を渡すので金を持ってうどん屋に来るように告げる

・大黒と片岡が密会

・神野が北沢にあゆみの偽の死体写真を送る

・北沢が偽の死体写真を片岡に見せる

・神野は、美紀と赤ちゃんを保護するため、学校に移す

・警察が貸し切って張り込んでいるうどん屋で、木村と大黒はビールを飲みながら話す

・木村は金を受け取り、大黒は資料(実は違法ポルノ)を受け取って去る

・大黒は検問に引っかかり飲酒運転と違法ポルノで捕まる

・その頃、学校では北沢が教室を訪れて神野に会う

・神野は、北沢にこれまでのすべての経緯を話す

・警察が教室に入り、驚いた北沢が銃を落として逮捕される

・翌朝、神野は校庭で、美紀の転校の日のことを話し、「一緒に帰ろう」と告げる


[エンドロール後]

・左手薬指に指輪をして赤ちゃんをあやす美紀の後ろのテレビでは、『江藤元外相逮捕』のニュースが流れる

 

巧みなミスリード

劇中、全てを知っている神野、木村、美紀に対し、北沢、片岡、大黒は、いくつかの誤解をしたままでストーリーが進んでいきます。映画を観ている我々観客もまた、巧みなミスリードによって彼らと同じ誤解をしたまま映画を観ることになります。これを整理してみます。


北沢の誤解

北沢の誤解は主に下記の2つです。

(1)木村は妊婦の妻を置いて不倫して失踪した。

(2)不倫相手は片岡の女で、自社の社員が取引相手の女に手を出したことに慌てた大黒が、木村の捜索を依頼してきた。

 

(1)の誤解の発端は、神野の台詞によるものです。

「木村なら病院に行けば会えると思う」

「子供産まれたんだ、今朝」

「佐野(美紀)さんがお母さんなったんだよ」

これを聞けば誰だって、木村と美紀に子供が生まれたと誤解しますよね。

 

嘘はついていませんが、真実を知った上でこの台詞を聞くと、少し強引な気はしますね。この時点で神野は北沢が偽"島崎"だと気づいていませんから、北沢を騙そうという意図はありません。神野も教師なら人に分かりやすく伝える努力をした方がいいですね(笑)。これは完全に観客へのミスリードを意識した台詞です。


(1)の誤解を決定づけるのは、神野の妹のマンションの防犯カメラ映像です。神野の妹が木村の背中を撫でながら歩き、エレベーターの中では木村の胸に頭を傾けます。これにはすべてを知っている側の神野も2人の関係を誤解します。

 

この真相はエンドロール直前でネタバラシされます。神野の妹が木村の背中を撫でていたのは、神野が美紀にプロポーズしようとしていることを知って落ち込む木村を慰めるため。エレベーターで頭を傾けたのは、美紀が買ってくれたという靴を見るため。思わずニヤけてしまう、いいオチでした(「ホットケーキ食べた」という下手な言い訳のような台詞が事実だったというのがまた面白いです)。


(2)の誤解は、あらすじにもあるように、神野がメグに美紀の写真を見せて質問したことが原因です。これはもちろん、すべてを知っている神野が北沢を欺くために意図的に違う写真を見せたのです。美紀の子供が産まれた時に、神野が携帯電話で撮った写真ですね。ちょっとした伏線です。


片岡、大黒、唐沢の誤解

悪役連中の誤解は、主に下記の3つです。

(1)あゆみは堕胎を迫られて逃げ出したのではなく、男(木村)ができたからだった

(2)木村はあゆみに利用されて大黒からお金をゆすっている。

(3)あゆみは殺された。


これらの誤解は、すべて北沢が誤解を元に唐沢や片岡に話したことが発端となっています。すなわち、木村とあゆみができていることと、あゆみが殺されたことです。


これらの誤解があるからこそ、彼ら悪役連中の"何も分かってない感"が強調され、ラストでの痛快さが増しているという点で、いい味付けになっています。


観客の誤解

映画の後半、神野が木村のいる部屋に帰るまで、映画を観ている我々観客も、基本的に北沢と同じ誤解をするようになっています。すなわち、木村は妊婦の妻を置いて不倫しており、相手は片岡の女であるということです。

 

秀逸なのは、映画を通じて、我々観客は北沢以上にミスリードされているということです。


オープニングの一連のシーンは、その最たるもの。中学時代の美紀が木村に手紙を渡すシーンから、同じ構図のままで現在の2人のシーンにクロスフェードで切り替わります。これは見事なミスリードです。ラブレターと思われる手紙を渡すシーンから、朝食を一緒に食べたようなシーンに飛べば、それがきっかけで付き合って夫婦になったのだと解釈してしまいます。その後の会話にしても、普通に聞くと、出産を控えた美紀が夫と父と話しているように聞こえます。これが真実を知った上で聞くと、全然別の意味になるのですから、すごいものです。


さらに細かいことを言えば、映画として嘘をつかずにミスリードしていることもすごいところです。例えば、中学時代の美紀が神野に手紙を直接渡すシーンを描いて、そこから現在の美紀と木村のシーンに飛んでいたとしたら、これは中学時代の神野を木村と偽るために、嘘をついているようなものです。クロスフェードによって人物の構図そのままに数年後に場面転換することは、映画の表現としては、同じ人物の数年後の姿とみるのが自然だからです。


そこを本作では、手紙を渡した後の「神野くんに渡してくれる?」という台詞を冒頭ではカットし、そのまま現在のシーンに飛ばすことで、美紀と木村が結婚したとミスリードしています。ここには嘘はありません。"見せていない"だけです。「嘘なんてついてないよ、言わなかっただけだよ」というやつです(笑)

 

映画を面白くする仕掛け

ネタバラシで衝撃

神野が帰宅して木村がいるシーンで、観客はようやく何かが変だと気づきます。しかし真実がよく分からないままで映画は進行していきます。学校で北沢が神野に言う、

「何だかよく分からないが、お前らヤクザ相手に何やってるんだよ」

が観客の気持ちを代弁します。そこで神野からネタバラシされることで、北沢と観客はようやく真実を知ることになります。


ここで語られる真実は、あらすじで述べた通りですが、初めて見た時は予想外過ぎて、少し混乱しました。北沢が言うように、こいつらヤクザ相手に何やってんだと思ったら、実は警察がバックにいたなんて!


ネタバラシが始まるまでは、警察の気配なんて一切しなかったのに、実はこれまで出てきた登場人物のほとんどが警察官だったというのが衝撃です。美紀のお父さんに見えた男性も、ご近所さんに見えた男性も、コワモテな男たちも、みんな警察官だったのです。


極め付けはムロツヨシ演じる男。美紀の赤ちゃんが産まれそうになり病院に行こうとした時にたまたま通りかかり、病院まで送ってくれたかと思えば、産まれるまで病院に待機して神野と共に出産を喜び、朝になっても病院にいたあの男です。


通りすがりに巻き込まれて、ずっといる。それが笑いになっていて、このキャラクターの役割は終わったかと思いきや、彼もまた警察官として後のシーンに現れます。彼はたまたま通りかかったわけではなく、美紀を警護する警察官の1人であり、共に病院にいてもおかしくない立場の人物だったというわけです。


病院のシーンでは明らかに笑わせに行っているのですが、真実を知って見ると、実はそれほどおかしな話ではないという仕掛けが巧妙です。


映画ファンの心をくすぐる小道具

内田けんじ監督の作品は、普通の人の日常に、探偵やヤクザといった非日常が絡み、面白いストーリーを形作るのが常。その中に、ミステリー作品に使われそうな小道具が多数盛り込まれ、それが映画ファンの心をくすぐります。


闇取引で手に入れた銃、車のコンソールボックスに入った指輪、すり替えられた携帯電話、違法動画のディスク、プレゼントの靴などです。


銃は最後に北沢が逮捕される決定打となります。指輪は実は神野のものだったことが分かることで、彼の決意を示します。ディスクは大黒を逮捕するために使われます。そしてプレゼントの靴は、防犯カメラ映像の真実として、映画のオチとなります。


このように、一つ一つの小道具が、ストーリー上で意味を持つ伏線となっているのも見事なものです。


そういえば各登場人物の携帯電話の着信音は、神野がベートーヴェンの『交響曲第5番(運命)』、片岡もベートーヴェンの『エリーゼのために』、木村はパッヘルベルの『カノン』、そして北沢や唐沢はバイブでした。この辺も何か意味付けしているのかなとも思って見ていましたが、特に意味はないのかな?こういうところも意識してしまうくらい、いろいろ仕掛けられているのが内田けんじ作品なんですよね。

 

北沢と神野の台詞の応酬

映画中盤、神野は北沢から辛辣なことを言われます。


「お前みたいにずっと教室で生きてるような奴に人間の何がわかるんだよ。何にも知らないで自分の都合のいいように世間見て。人間見て安心しやがって。お前みたいな奴見るとムカムカすんだよな。早く卒業しろよ、中学校から。」


この"自分の都合のいいように世間見て"というのは、"木村が不倫なんて"という神野の態度に対するものです。映画を見終えて真実を知った上で考えると、"自分の都合のいいように見ている"のは北沢の方であり、この辛辣な煽り台詞も滑稽に聞こえます。


そして映画のクライマックス。警察に連行されていく北沢に対し、神野は言います。


「あんたみたいな生徒どのクラスにもいるんだよ。全部わかったような顔して勝手に捻くれて。この学校つまんねえだの何だの。あのなあ、学校なんてどうでもいいんだよ。お前がつまんないのは、お前のせいだ。」


親がどうの、先生がどうの、学校がどうの文句ばかりの奴、確かにいつもいます。社会に出てみたら、上司がどうの、会社がどうの、政治がどうの。そして油断すると、自分もすぐにそっち側の人間になってしまいそうです。


自分がつまらないのは自分のせい。この台詞は、自分が抱えていたモヤモヤをズバッと言ってくれた台詞として、とても印象に残りました。中盤の北沢の台詞に対するアンサーにもなっていて、とても痛快な台詞です。


タイトルに込められた意味

本作は、中学時代の美紀が神野宛の手紙を木村に渡すシーンから始まります。そしてラストではこのシーンのリピートから、校庭を眺めながら話す神野と美紀のシーンに繋がります。そして神野は、あの日の放課後に言えなかった「一緒に帰ろう」の言葉を告げます。


タイトルの『アフタースクール』は"学校の後"、すなわち"放課後"を意味します。本作は神野にとって消化不良となったあの日の放課後を、時を経て締めくくるまでの物語、すなわち"長い放課後"を描いた物語と見ることもできます。タイトルはそれを表現したものでしょうか。

 

あるいは、『アフタースクール』を"学校を卒業した後"と捉えることもできるかもしれません。上に挙げた北沢と神野の台詞に見られるように、学校を卒業しても教師として教室で生きる神野と、それを嘲りながらも自身は中学生のように斜に構えて捻くれたままの北沢の対比を、このタイトルに込めたのかもしれませんね。

 

最後に

今回は映画『アフタースクール』の解説&感想でした。あまりにも巧妙に仕掛けがなされているので、何度も見返すのが楽しい作品です。

 

ただ、一度見ただけでは理解しきれないというのは、マイナスポイントにもなりえます。個人的には、巧妙さと分かりやすさを兼ね備えた、内田監督の次作『鍵泥棒のメソッド』がやはり最高傑作だと思いますね。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

 

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