どうも、たきじです。
今回は映画『つばさ』の解説&感想です。記念すべき第1回アカデミー賞で作品賞に輝いた作品です。
作品情報
タイトル:つばさ
原題 :Wings
製作年 :1927年
製作国 :アメリカ
監督 :ウィリアム・A・ウェルマン
出演 :クララ・ボウ
チャールズ・ロジャース
リチャード・アーレン
ジョビナ・ラルストン
ゲイリー・クーパー
上映時間:141分
解説&感想(ネタバレあり)
今でも楽しめる娯楽作品
冒頭述べたように、本作は第1回アカデミー作品賞受賞作品。当時のアカデミー賞の規模は現在ほど大きくなく、現在以上に内輪で称え合うという性質が強かったようです。それでも、アカデミー作品賞受賞作品という箔のおかげで、公開から100年近く経った今でも作品を観てもらう機会が増えているのは間違いないでしょう。
ジャンルや年代問わず映画を楽しむのは、私を含めごく一部の映画オタクであって、映画好きでもさすがにサイレント期の映画は観ないという人も少なくありません。あるいは、サイレント映画で観るのはチャップリンやキートンのようなコメディくらいという人もいるでしょう。
コメディは他のジャンルに比べれば陳腐化しづらいというのはその一因でしょう。本作のようなアクション映画は技術面で陳腐化しやすいですからね。本作だって技術的には現代の映画とは比べ物にならないものです。しかし、当時にできる最大限の撮影技術と、人を興奮させるツボを押さえた脚本と演出によって、今でも楽しめる娯楽作品になっています。
撮影技術と脚本
昔の映画と侮っていたけれど、本作の空中戦の迫力に驚かされたという人は少なくないのではないでしょうか。私もその1人で、初見時には、サイレントでこんなスペクタクルが実現できたのかと驚きました。
実際に飛んでいる飛行機のショットと、スクリーンプロセスを背景に使ったパイロットのショットがうまく編集されて仕上げられた空中戦。当時の人がこれを見てかなり熱狂する姿が目に浮かびます。
現代のようなCG技術や音響効果がない分は、ストーリーをうまく盛り上げることで空中戦の迫力を補います。
ジャックが空に憧れる様子や訓練を繰り返す描写がしっかりしているからこそ、初任務で2人が飛び立つシーンにあれほどの爽快感が生まれます。ゴータとの空中戦では、街が爆撃によって破壊された後にここぞとばかりに2人が登場するのから、あれほどの興奮が生まれます。そして最後の総攻撃では、デヴィッドを失った(と思っている)ジャックが復讐に燃える姿があるから、観客も熱くなります。
本作の興奮は、撮影技術と脚本の相乗効果で生み出されていることがよく分かります。
映像表現のテクニック
本作は、空中戦以外でも、映画的な映像表現のテクニックで目を引くところが少なくありません。
例えば戦争が始まることを説明するシーン。状況を説明する長い字幕。やがてその字幕の前に暗雲が立ち込め、「WAR」という大きな文字が燃えながら、画面奥から手前に向けて現れます。
また、例えば戦争が激化する様子を描いたシーン。平原を行軍する部隊をロングショットで映し、画面上部の空の部分にコラージュで、戦闘の様子のモンタージュを映し出しています。
そしてもうひとつ。本作でとりわけ目を引くのが、パリのシークエンスの冒頭で唐突に現れるトラッキングショットです。画面手前から奥に向かって、歓談する客のテーブルの上を通過してカメラがジャックに近づいていくショット。今の時代に見ても違和感のない素晴らしいショットです。
脚本には雑なところも
脚本は、全体としてはよくできているものの、現代の感覚で見ると少々雑に見えるところも少なくありません。
まず、ジャックのキャラクターはあまりにも鈍感過ぎ。誰がどうみてもデヴィッドとシルヴィアは両想いでいい感じになっているのに、ジャックはその2人の間に割って入ろうとします。
それも「なんとかこっちに振り向かせてやる」的な入り方ではなく、ジャックにはデヴィッドが見えていないかのようにシルヴィアに接しています。入隊前にシルヴィアに別れを告げる際には、彼女がデヴィッドのために用意していた彼女の写真を、自分への贈り物と勝手に勘違いする有様です。
当然、ジャックは彼に思いを寄せるメアリーの気持ちには一切気付きません。
メアリーも似たようなもので、ジャックの眼中にないのは明らかなのに、まるで脈があるかのようにジャックに絡んでいきます。
また、ジャックとデヴィッドの関係の描写も少し雑なところがありますね。2人は共に入隊し、当初は仲が悪かったわけですが、殴り合いの喧嘩をしたことでお互いを認め合います。いや、殴り合って友情が芽生えるってね。昔ながらだな、と思ったら、本作、昔でしたね(笑)
パリのシークエンスは急にラブコメ
上述のトラッキングショットも印象的なパリのシークエンスは、実はあまり好きではありません。このシークエンスは映画のテイストが急に変わってラブコメっぽくなります。ラブコメ自体は嫌いじゃないですが、このシークエンスはやたらと長くてメインのストーリーが分断される印象です。
酔っ払ったジャック(実際に酒を飲ませて酩酊状態にしたのだとか)が見る幻覚のような泡の特殊効果がしつこくないですか?メアリーが軍服からドレスに着替えてジャックの気を引くというのも突飛すぎる展開です。いや、ラブコメならいいんですけどね。
まあ、このシークエンスがあるから、映画序盤では少々うざったいヒロインに思えたメアリーが、健気で献身的なヒロインに変わるわけですけどね。
クライマックスにかけて締まる脚本
色々ツッコミどころもありましたが、映画終盤からクライマックスにかけては脚本が締まりを見せます。
ストーリーが大きく動き出すきっかけは、ジャックとデヴィッドのすれ違い。ジャックが落としたシルヴィアの写真を、デヴィッドは破ってしまいます。これは、ジャックを傷つけないためのデヴィッドの優しさ。ジャックは気づいていませんが、写真の裏にはデヴィッドへのメッセージが書かれているのです。当然それに対してジャックは怒ります。
そこで、出撃の時が来ます。デヴィッドはクマのお守りを忘れて出陣します。いつものように飛び立つ前に“All set?”とジャックに問いかけるデヴィッドですが、ジャックは無視。その後、敵機の編隊を1人で相手したデヴィッドは撃墜されてしまうのです。
この一連のシーンではデヴィッドの内面に迫った描き方がされます。シルヴィアへの想い、ジャックへの気遣い、ジャックの怒りによる動揺。これらがデヴィッドの行動にも反映されています。また、このシーンではシルヴィアの写真、クマのお守り、“All set?”→“O.K.”の台詞などの伏線が一気に回収されるのが心地よいです。
そして、クライマックス。なんとか一命を取り留めたデヴィッドは敵機を奪って自陣に向かいますが、あろうことか、デヴィッドの仇討ちに燃えるジャックに撃ち落とされてしまうのです。
やるせない悲しい結末ですが、このシーンの演出は見事です。撃墜した相手がデヴィッドであることを知って駆け寄ったジャックはデヴィッドと会話を交わし、最後に“All set?”、“O.K.”の言葉を交わします。前回はジャックが無視する形で途切れたこのやりとりで再び二人が通じ合います。やがてデヴィッドの死を暗示するかのように戦闘機のプロペラが止まります。飛行機乗りの死を表現するというはなかなか痺れますね。
全てを洗い流すラストシーン
故郷の人々に華々しく迎えられ、英雄として帰還したジャックですが、デヴィッドの両親やシルヴィアのことを思うといたたまれない気持ちになります。このような娯楽作品であっても、何から何までハッピーエンドというのはあり得ない、それが戦争ということでしょう。
ラストシーンでは、流れ星とキスの伏線が回収されます。ジャックはメアリーと共に流れ星を眺め、"愛する人"メアリーにキスをするのです。流れ星がすべてを洗い流すように後味すっきりのラストシーンでした。
流れ星の効果音が、パリのシークエンスのしつこかった泡の効果音と同じであることには苦笑いですが(笑)。これも伏線であったと捉えておきましょう。
最後に
今回は映画『つばさ』の解説&感想でした。ほぼ100年前の映画をこうして普通に楽しむことができるというのはすごいことですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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