どうも、たきじです。
今回は映画『アパートの鍵貸します』の解説&感想です。ビリ・ワイルダー監督の代表作で、アカデミー賞では作品賞を始め5部門を受賞したロマンティック・コメディの大傑作です。
作品情報
タイトル:アパートの鍵貸します
原題 :The Apartment
製作年 :1960年
製作国 :アメリカ
監督 :ビリー・ワイルダー
出演 :ジャック・レモン
シャーリー・マクレーン
フレッド・マクマレイ
レイ・ウォルストン
ジャック・クルーシェン
上映時間:120分
あらすじ
保険会社に勤めるバクスター(ジャック・レモン)は、出世のために、上司と愛人の情事のために自身が住むアパートを貸す生活を送っています。ある時、その噂を聞きつけた部長のシェルドレイク(フレッド・マクマレイ)にもアパートを貸すことになりますが、シェルドレイクの愛人はバクスターが想いを寄せるエレベーターガールのフラン(シャーリー・マクレーン)であることが分かり…
解説&感想(ネタバレあり)
無駄のない緻密な脚本
ビリー・ワイルダー監督が共同で脚本も務めた本作、無駄がなく非常に緻密に仕上げられています。人物設定や物語の背景を簡潔に描きつ物語をスムーズに展開させていく手腕は本作においても存分に発揮されています。
ひねりの効いた恋愛要素、ふんだんに盛り込まれたユーモア、そして全体に漂う哀愁。それらを織り交ぜてスマートにまとめられたこの完成度。面白い映画の教科書のような脚本です。
基本プロットが面白いのはもちろんですが、ちょっとしたワンシーンにも脚本の緻密さが現れています。一つ例を挙げると、会社でのクリスマス・パーティで、バクスターが自分のオフィスにフランを招き入れるシーン。
シェルドレイクの女性遍歴と彼の"手口"を、シェルドレイクの元愛人から聞かされたフランは呆然としていますが、バクスターはそれに一切気づかずにフランに陽気にまくし立て、新しく買った帽子を嬉しそうに見せます。
バクスターは、部長と親しいから君の昇進も頼んでみようか、と言って、シェルドレイクのクリスマスカードを見せます。そこにはシェルドレイクの家族の写真があり、フランにさらに追い打ちをかけます。
新しい帽子を被ったバクスターにフランが手鏡を渡すと、鏡にはヒビが。この鏡はシェルドレイクにアパートを貸した日に部屋に忘れられていたもの。バクスターはフランがシェルドレイクの愛人だと悟って落ち込みます。
このシーンは完璧ですね。まず、クリスマスカード、帽子、手鏡という小道具をうまく使って、キャラクターの感情を動かしてストーリーを展開させています。フランは落ち込み、陽気だったバクスターも落ち込みます。
そして、この一室にいびつな三角関係を炙り出し、陽気なバクスターのユーモアもやがて哀愁に取って代わられます。鏡のヒビを指摘されたフランの、「この方がいいの。私の心を映して」という台詞も素晴らしいです。
ちょっとしたシーンながら、本作の脚本の魅力が濃縮されたシーンだと思います。
小道具による演出
上記のシーンもそうであったように、本作は小道具がうまく演出に盛り込まれているのが印象的です。小道具が、時にキャラクターを描写し、時にストーリーを動かし、時に笑いを生み、時に哀愁を漂わせます。
例えば、フランがシェルドレイクの愛人だと悟ったバクスターがバーで飲んだくれるシーン。バクスターは、カクテルに乗っていたオリーブをテーブルの上に円状に並べています。バクスターが飲んだ酒の量を示すと同時に、彼の精神状態を描写しています。
また、本作で有名なシーンの一つがテニスラケットでスパゲッティの水切りをするシーンでしょう。別のシーンで、フランから「なぜキッチンにラケットが?」とバクスターが聞かれるシーンがありますが、このシーンを受けての実演シーンには吹き出してしまいます。
そして、注目したいのクライマックスのワンシーン。フランを諦め、傷心のバクスターが引っ越しの準備をするシーンです。ラケットを手にしたバクスターは、ラケットに絡まった1本のスパゲッティを手に取りなんとも言えない表情を浮かべます。
中盤ではお笑い担当だったテニスラケットが、クライマックスでは哀愁を漂わせるアイテムに変貌する、この小道具の使い方も見事でした。
他にも挙げればキリがありません。印象的に使われた小道具を、上述のものを含めて並べてみましょう。
- アパートの鍵
- 酒の空瓶
- 体温計
- コサージュ
- 点鼻薬
- ヒビの入った鏡
- 帽子
- クリスマスカード
- オリーブ
- ストローの袋
- レコード
- 100ドル札
- 睡眠薬
- 封筒
- カミソリ
- トランプ
- テニスラケット
- 管理職用トイレの鍵
- シャンパン
- 銃
本作を見たことのある方なら、小道具からシーンが浮かんでくるものが多いのではないでしょうか?
最高におしゃれで素敵なラストシーン
さて、脚本の素晴らしい本作、やはりクライマックスでも見せてくれます。何でしょう、ものの見事に映画を見る我々の感情を揺さぶってくるんですよね。
自殺を図ったフランを介抱し、シェルドレイクによって補佐役の地位を与えられたバクスター。しかし、シェルドレイクの離婚が成立してしまったことで、シェルドレイクはフランとの関係を進めようとします。出世は果たしたものの、好きな女性を取られたままの、虚しい出世です。フランの前では、彼女ができたかのように振る舞うのがまた哀愁を漂わせます。
バクスターの気持ちなど察するはずもないシェルドレイクは、なおもバクスターにアパートの鍵を要求します。ここで、バクスターはシェルドレイクに鍵を渡しますが、これはアパートの鍵ではなく管理職用トイレの鍵。そしてバクスターは会社を辞めるのです。
上司に対して言いたいことを言えず、ゴマをするばかりだったバクスターが行動を起こすこのシーンは、一つの見せ場として熱いシーンと言えるでしょう。
そして引っ越しの準備をするバクスター。上述の"1本残ったスパゲッティ"の哀愁。
やがてバクスターの気持ちに気付き、シェルドレイクの元を離れてバクスターのアパートへと走るフラン。笑顔でアパートの階段を駆け上がったところで聞こえる"銃声"。あわてて扉を叩くと中から出てくるバクスターの手には栓の開いたシャンパン。安心した表情で「ヒザは大丈夫?」と問いかけるフラン(バクスターが過去に銃でヒザを撃ったことから)。
このあまりに有名なシーンは本当に素晴らしいですね。フランが駆け出して高まるロマンス。"銃声"によって高まる緊張感(銃をちらつかせるシーンが効果的)。シャンパンが現れて安堵したところで「ヒザ」に触れるユーモア。素晴らしい。
そしてラストシーン。抱き合うでもなく、キスするでもなく、トランプをする2人。「愛してる」「君に夢中だ」と思いを告げるバクスター。「黙って配って」とはぐらかすフラン。バクスターはカードを配りながら、フランはカードを手に取りながら、2人は最高の笑顔で互いに見つめ合います。
なんておしゃれで素敵なラストシーンでしょう!このシーンに、分かりやすく2人が結ばれる描写はありません。バクスターはフランに夢中。フランはバクスターに恋しているとは言い切れないものの、彼の気持ちを理解し好意を抱いていることは確か。そんな2人の微妙な距離感を描きつつ、明るい未来を感じさせる絶妙なラストシーンです。
ビリー・ワイルダー監督の作品だと、『お熱いのがお好き』のラストシーン("Well, nobody's perfect." 「完璧な人はいない」)が有名ですが、本作のこのラストシーンも本当に素晴らしいと思います!
ジャック・レモンとシャーリー・マクレーン
脚本に描き込まれたユーモアと哀愁を、確かな演技力で表現したジャック・レモンはさすがですね。彼の表情や動きはとにかくおかしくて笑ってしまいますし、ひとたびそのユーモアが姿を隠せば、途端に哀愁が漂います。
そして、ヒロインを最高にキュートに演じたシャーリー・マクレーン。美人とか美人じゃないとか、そういうのを超越した魅力を、本作では放っていました。
最後に
今回は映画『アパートの鍵貸します』の解説&感想でした。ロマンス、ユーモア、哀愁を織り交ぜて、スマートにまとめられた緻密な脚本と、それを完璧に表現した俳優陣の演技が圧倒的な魅力を放つロマンティック・コメディの大傑作。水野晴郎じゃなくても、映画って本当にいいもんだなと思わされる作品です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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