どうも、たきじです。
今回は、映画『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』の解説&感想です。ニック・パークが描く、短編アニメ映画の大傑作です。
原題の"The Wrong Trousers"は直訳すると、"間違ったトラウザーズ"。意訳すると"履き違えたズボン"みたいな感じでしょうか。本作のキーアイテムである"テクノズボン"を指しているのでしょう。
作品情報
タイトル:ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!
原題 :The Wrong Trousers
製作年 :1993年
製作国 :イギリス
監督 :ニック・パーク
声の出演:ピーター・サリス
萩本欽一(日本語吹き替え版)
上映時間:29分
解説&感想(ネタバレあり)
『ウォレスとグルミット』シリーズ第2作
『ウォレスとグルミット』はニック・パークが手掛けるイギリスのクレイアニメのシリーズです。クレイアニメのクレイ(clay)とは粘土のこと(『ウォレスとグルミット』ではプラスティシンという塑像用粘土が用いられています)。キャラクターを少しずつ動かしながら1コマずつ静止画を撮影してアニメーションにしたものをストップモーション・アニメーションといいますが、それを粘土のキャラクターで描いたものがクレイアニメです。『ウォレスとグルミット』はそんなクレイアニメを代表する人気シリーズです。
本作は、第1作の『チーズ・ホリデー』に続く第2作であり、シリーズ最高傑作とも言われる(少なくとも私はそう思っている)作品です。
魅力的なキャラクター
シリーズの人気の理由の一つが、魅力的なキャラクターにあることは間違いないでしょう。それはキャラクターのデザインのみならず、作中でのキャラクター描写によるところも大きいと思います。
まずは、ウォレス(ピーター・サリス)。発明家です。本作では、"早起きマシン"という発明品が登場します。自動でベッドからダイニングに運んで(落として)くれて、着替えまでさせてくれるという機械で、彼のトンデモ発明家ぶりが描写されています。
壁にかかった豚の貯金箱の裏に金庫を隠していて、その中に豚の貯金箱を入れているなんていう描写も、彼のとぼけたキャラクターを描写した可笑しいシーンです。
そして、グルミット。ウォレスの愛犬です。言葉こそ喋りませんが擬人化されています。前足を手のように使って、新聞を広げて読んだり、編み物をしたりもします。ウォレスとは対照的なしっかり者です。
とぼけた性格のウォレスを冷ややかに見ているようでいて、誕生日を祝ってくれるのを待ちこがれています。プレゼントは首輪と、自動で散歩してくれる機械(テクノズボン)とあってがっかり。散歩に送り出されたら、首輪を外して1人滑り台で遊ぶグルミットですが、帰ってきたときはしっかり首輪をはめています。
本当はウォレスのことが大好きなことが分かるそうした描写から、表情にまったく愛嬌がないにも関わらず、可愛く見えてしまうのだから不思議です。
最後は、本作のゲストキャラにして"悪役"のペンギン。こちらもグルミット同様、言葉は発しませんが擬人化されています。目に表情のあるグルミットと違い、こちらは完全に無表情。下宿人として現れるなり、グルミットの部屋を奪ってしまう図々しさ。どこか怪しい行動に加え、その無表情さ故に何を考えているか分からない感じが不気味さを感じさせます。
無駄のない秀逸な脚本
映画は1秒24コマなので、本作の29分で計算すると41,760コマということになります。その1コマ1コマでキャラクター動かす訳ですから、途方もない手間がかかります。それもあってか、本作の脚本は無駄がなく秀逸なものに仕上がっています。
冒頭では無駄のないキャラクター紹介が秀逸です。上に述べたようなキャラクター描写のシーンは、単にキャラクターの性格を説明するに留まらず、それ自体が楽しいシーンになっていますし、"早起きマシン"にしても"テクノズボン"にしても、後半の宝石泥棒のシーンへの伏線になっています。
ウォレスの家の中をオモチャの列車が走っているのも、家の中に列車を走らせるウォレスのとぼけたキャラクターを描くと同時に、誕生日プレゼントを運ぶのにも使われ、さらにはクライマックスのキーアイテムとなっています。
中盤は、サスペンスフルな展開が見事です。うまくウォレスに取り入って、何かを企むペンギンの不気味なこと!
段ボールを被ったグルミットが、目のところに開けた穴を覗きながらペンギンを尾行するシーンもスリリングに描かれています。ペンギンが振り向き、グルミットに近づいてくるところではドキッとしますが、穴の位置がちょうど段ボールに描かれた犬のイラストの目の位置と重なっていて、結局ペンギンはグルミットに気づかず去っていきます。スリリングなシーンを笑いで落とすのが実にうまいです。
終盤では、クライマックスに向けてストーリーが動き出します。まず、このペンギンが宝石泥棒を企む指名手配犯だったことが明らかになります。彼は犯行時に赤いゴム手袋をトサカに見立ててニワトリに変装します(指名手配写真もニワトリの姿)。ゴム手袋を被っただけで、ウォレスやグルミットの目をごまかせているのが面白いです。
こういうのは映画等における"暗黙のルール"みたいなものですね。『スーパーマン』でクラーク・ケントは眼鏡をかけただけで彼がスーパーマンだと誰にも気付かれません。『お熱いのがお好き』で女装したトニー・カーティスとジャック・レモンは、彼らが男だと誰にも気付かれません。そういうものなのです(笑)
そしてペンギンはウォレスをまんまと利用して、宝石を奪い、逃げようとしますが、ここでグルミットが立ちはだかり、映画はクライマックスへと突入します。
クレイアニメの歴史に残る迫力アクション
階段の手すりを滑り降りて逃げるペンギン、それを追いかけるグルミット。ここから唐突にアクションシーンが始まります。ウォレスの家の中を走り回るオモチャの列車の上での攻防です。
列車の上での銃撃、ポイント切り替えや連結の切り離しといったギミックを使った攻防は西部劇さながら。言葉を発しないペンギンとグルミットがサイレントで繰り広げる攻防の中に、騒がしくまくしたてるウォレスが加わって、さらに盛り上がっていきます。極め付きは、途切れたレールを継ぎ足して列車をコントロールするグルミット!猛スピードで必死にレールを継ぎ足す様子は、滑稽でありながら興奮させられます。
ペンギンを空き瓶の中にスポッと捕まえるという、攻防の微笑ましい幕切れ、そして動物園という名の"刑務所"に収監されるというオチまで、最高に楽しいクライマックスになっています。
あまりに濃密で完成度の高い2分間に、私は何度見ても涙が出そうになります。映画ファンなら分かってくれる人もいると思いますが、そのシーンがいわゆる"泣けるシーン"ではなくとも、あまりに完成度の高いシーンを見ると感動して泣きそうになってしまうんですよね。このシーンも、そんなシーンの一つです。まさか短編のクレイアニメで、こんな迫力のアクションが見れるなんて!
グルミットの感情表現
ストップ・モーションでこんな素晴らしいアクションを描いたことには頭が下がるばかりですが、このシーンが見るものを熱くさせるのは、そこに至る過程のストーリーをしっかり描けていることも大きいでしょう。
上で述べたようにグルミットは感情をあまり表に出さないものの、ウォレスが大好きです。そんな中にペンギンが現れてウォレスに取り入り、部屋を奪われるばかりかウォレスの愛情までも奪われてしまいます。ウォレスとペンギンが盃を交わすところを家の外から見ながら家出を決意するシーンもよく描けています(グルミットがウォレスとのツーショット写真を見つめるのが泣けます)。しかもそのペンギンは、悪党であり、まんまとウォレスを利用して宝石泥棒をしてしまったわけです。
グルミットには台詞がなく、表情の変化も少ないにも関わらず、しっかりと彼の感情が読み取れるのは、本作のストーリテリングのうまさ故でしょう。そして、それができているからこそ、ペンギンを逃がすまいと奮闘するグルミットに、私たちはすっかり感情移入し、熱くなるのです。
本作は"グルミットが主人を守るために奮闘する話"であり、"グルミットが主人の愛情を取り戻す話"なんですね。最後のウォレスの台詞「ありがとうグルミット、やはり君が一番だ」によって、最高のハッピーエンドが迎えられます。
最後に
今回は『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』の解説&感想でした。短編なので気軽に見られるのもいいですし、何度も見返してしまう作品です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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