どうも、たきじです。
今回は映画『アンダーグラウンド』の解説&感想です。今回は、1995年公開の映画『アンダーグラウンド』の解説&感想です。フランス、ドイツ、ハンガリー、ユーゴスラビア、ブルガリアの合作映画で、カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドール受賞作品です。
作品情報
タイトル:アンダーグラウンド
原題 :Underground
製作年 :1995年
製作国 :フランス、ドイツ、ハンガリー、ユーゴスラビア、ブルガリア
監督 :エミール・クストリッツァ
出演 :ミキ・マノイロヴィッチ
ラザル・リストフスキー
ミリャナ・ヤコヴィッチ
エルンスト・シュテッツナー
スラヴコ・スティマツ
スルジャン・トドロヴィッチ
上映時間:170分
解説&感想(ネタバレあり)
「昔あるところに国があった」
映画冒頭に表示される字幕です。本作の舞台は旧ユーゴスラビア。ユーゴスラビア社会主義連邦共和国の解体に際して起こった内戦(ユーゴスラビア紛争)の最中に製作、公開されました。この背景を知らずして、本作を理解することは不可能でしょう。
前編通してブラック・ユーモアが溢れるコメディ映画ではあるものの、描かれているコトがコトだけに、私には笑いよりも悲しみの方が多い作品でした。
映画は"戦争"、"冷戦"、"戦争"の3つの章に分かれています。すなわち、第二次世界大戦におけるドイツによる占領期、戦後の社会主義体制確立後の冷戦期、そしてユーゴスラビア解体に伴う内戦期の3つです。
第一章は、賑やかな画作りとシニカルなユーモアで、混乱の中で生きる人々の人間模様を淡々と描いている印象。檻から逃げ出した動物達が空襲により荒廃した町を徘徊する様子だったり、ブラスバンドによる演奏と共に繰り返される馬鹿騒ぎの様子だったり、その画作りは印象深いものでした。フェデリコ・フェリーニ的な雰囲気も感じますね。
とはいえ、個人的には第一章は少し退屈にも感じられました。それが第二章になると、特異なシチュエーションで映画としての面白さがグッと増してきます。特異なシチュエーションとはすなわち、ドイツ占領下で地下に潜伏して暮らした人々が、20年もの間、戦争の終結を知らずに暮らし続けているというものです。
この時点では、第一章をもっと端折って、この辺りを掘り下げても良かったのではないかと思ってしまいました。しかし、第三章まで見ると、第一章もしっかり描くべきものであったことが分かります。
本作は、ユーゴスラビアの激動の50年を描いた壮大な作品であり、それぞれの章が同じように重要なもの。第一章、第二章と、50年の過程を見てきた主要な登場人物達が、ことごとく非業の死を遂げる第三章は、もはや本作がコメディ映画であることを忘れて見入ってしまいました。
イヴァンに杖で殴打され瀕死の傷を負った挙句、戦場で撃たれるマルコ。マルコの傍らで共に撃たれるナタリア。兄を殺した償いとして教会で首を括るイヴァン。
ここでも、マルコとナタリアの遺体を乗せて燃え上がりながら車椅子が走り続ける様子や、イヴァンが首を括った綱が教会の鐘を鳴らし続ける様子など、不気味ながらも印象深い画作りが目を惹きます。
その後、マルコとナタリアの死を目の当たりにしたクロは、"地下"に戻り、亡き息子にいざなわれるかのように井戸に飛び込みます。
彼らがかつて潜伏し、生活した地下(アンダーグラウンド)。そのさらに下の水の中で、クロは亡き家族や友と再会します。"アンダーグラウンド"は彼らのすべてであり、再会の場所でもあったということでしょう。
やがて彼らは、小さな半島のような場所で宴を始めます。そしてイヴァンがカメラ目線で私達に語りかけます。
苦痛と悲しみと喜びなしには、子供たちにこう語り伝えられない。
「昔あるところに国があった」と。
国が分割され、それぞれが殺し合う。祖国が無くなる。現代の日本に生まれ育った人にはおおよそ想像もできないことでしょう。言葉が辿々しい劇中のイヴァンとは異なり、真顔で淡々と語るイヴァンの台詞は、ダイレクトに私達の心に響きます。
やがて彼らのいた半島は島のように陸地から切り離されていきます。劇中、戦争が繰り返されるのと同様に、マルコやクロ達の馬鹿騒ぎもまた繰り返されます。ラストシーンで、切り離された半島の上で続けられる死者達の宴。ブラスバンドを伴い、劇中の馬鹿騒ぎと同じように騒ぐ彼らですが、見ているこちらはなんとも言えない悲しさを覚えます。
そして、最後は字幕で物語が締め括られ、深い余韻を残すのでした。
「この物語に終わりはない」
最後に
今回は映画『アンダーグラウンド』の解説&感想でした。個人的にこういうヨーロッパ的なブラックコメディはそこまでハマらないのですが、本作が極めて力を持った作品であることは確かでしょう。コメディながら心にずっしりとのしかかる作品でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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