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映画『遊星からの物体X』解説&感想 不気味でグロテスクなSFホラー

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どうも、たきじです。

 

今回は1982年公開の映画『遊星からの物体X』の解説&感想です。監督は『ハロウィン』のジョン・カーペンター。ホラー映画の名手が送るSFホラーの秀作です。

 

作品情報

タイトル:遊星からの物体X

原題  :The Thing

製作年 :1982年

製作国 :アメリカ

監督  :ジョン・カーペンター

出演  :カート・ラッセル

     A・ウィルフォード・ブリムリー

     ドナルド・モファット

     キース・デイヴィッド

 上映時間:109分

 

解説&感想(ネタバレあり)

短編小説の再映画化

本作の原作は、1938年の短編小説『影が行く』(『Who Goes There?』)。1951年に公開された『遊星よりの物体X』に次ぐ2度目の映画化です。1951年版よりも原作にのっとった作品になっています。


本作は、アメリカの南極観測隊の基地を舞台として、隊員たちと未知の生命体との闘いを描いています。原題の"The Thing"は、この生命体を指しています。


邦題の『遊星からの物体X』は、"遊星"とか"物体X"とか、悪い意味でオリジナリティを発揮してますね(笑)。この邦題は1951年版の『遊星よりの物体X』を踏襲したものですから、これは1951年当時のセンスということです。1951年版の原題は『The Thing from Another World』でしたから、この邦題は原題を意訳したものになります。"遊星よりの"を"遊星からの"にマイナーチェンジするくらいなら、一新した邦題でも良かったのに。


人と同化する"物体"

さて、上述の通り本作は、隊員たちと未知の生命体(タイトルの表現を借りれば"物体")との闘いを描いています。通信の絶たれた南極基地という、閉鎖された環境を舞台にして生き残るための闘いが繰り広げられるわけです。


閉鎖された環境で未知の生命体と闘うSFホラーというと、本作の3年前に公開されたヒット作『エイリアン』と類似します。『エイリアン』のヒットが、本作の製作の追い風になったと推測されますが、本作は『エイリアン』との共通性を持ちつつも、違った魅力も持っています。


それは、本作の敵である"物体"が人と同化し、隊員に成り代わるという設定にあります。隊員たちは仲間の誰が"物体"になっているか分からず疑心暗鬼になりながら、"物体"と闘うことになるわけです。


主役のマクレディ(カート・ラッセル)が"物体"になっている疑いがかかることや、血液で"物体 or 人間"を見分ける奇策など、設定がうまく活かされた展開が面白いです。


また、敵の実態が見えず、正体不明という点も本作の魅力でしょう。一匹の犬を執拗に追いかけるノルウェーの観測隊の不可解な行動や、どこか怪しく基地を歩き回る犬の存在など、冒頭からなかなか不気味な雰囲気が醸し出されています。


ノルウェーの観測隊の基地の探索や、彼らが残したビデオの映像などから、徐々に断片が明らかになっていく様子も、静かな恐怖を煽ってきます。


ちなみに、このノルウェー観測隊の顛末を描いたのが2011年に公開された『遊星からの物体X ファーストコンタクト』。こうした続編というのはなかなか面白い試み。最近のTVゲームならDLCでやりそうなネタですね。

 


"物体"の造形

H・R・ギーガーによる『エイリアン』のエイリアンの造形も凄まじいものですが、ロブ・ボッティンによる本作の"物体"の造形もなかなかのものです。


中でも、ノリスが"物体"に変容するシーンは、強く印象に残ります。胸がぱっかり開いて、心臓マッサージをしていたドクターの手を飲み込んだかと思えば、触手が現れ、やがてはノリスの首からカニのような脚が生えて歩いていきます。逆さまの首から脚と目が生えたこの造形の凄まじさよ!


完全な異生物に変容しながらも、その一部に人間の顔を残しているところに、言いようのない絶望感を覚えます。あまりにグロテスクです。


こうしたクリーチャーの造形は、当時は今以上に衝撃的だったことでしょう。後の作品にも多大な影響を与えていると考えられます。


個人的に馴染みが深いところで言えば、ゲーム『バイオハザード』シリーズのクリーチャー造形は、かなり本作の影響を受けていると感じます。『バイオハザード2』の"G"の第2形態なんかまさにです。本作のクライマックスで床板を破って出てくる"物体"も、バイオハザードの中ボス感ありますし(笑)

 

また、そうしたこれまでにない造形を表現する技術も、80年代という時代を考えると驚くほどの水準だと思います。"物体"のシーンは全体的に薄暗かったり、短いカットを中心にシーンを構成したりしているところも、チープさを抑えるのに寄与していることでしょう。"はっきりと見せない"ことは、そうした効果に加えて、観客の想像を掻き立て、恐怖を煽る効果も生んでいます。


一方で、"物体"が床板を破って出てくる上述のシーンなど、"物体"の触手の動きをストップモーションで描いているシーンもあります。こちらは一転、"80年代っぽさ"満載でちょっとチープさは否めない出来です。


マクレディのキャラクター

カート・ラッセルという役者は、個人的にはそこまで魅力的に感じないのですが、本作のマクレディ役はなかなか魅力的でした。極限の状況の中でリーダーシップを執り、自分が疑われる難局も脱し、最後まで闘う姿、格好いいじゃないですか。


印象的なのは冒頭のシーン。マクレディはパソコンでチェスのゲームをしています。相手の手に対して余裕をかましていたら、逆にチェックメイトされてしまいます。それに対し、マクレディは飲んでいたウイスキーをパソコンの基板にぶちまけ、パソコンを壊して相打ちに持ち込むのです。


これはマクレディのキャラ付けのシーンくらいに見ていましたが、終わってみれば本作の結末を暗示するシーンになっていたことに気付きます。"物体"と人間の見分け方を見つけて得意げになっていたところで、マクレディ達は基地の発電機を壊されてしまいます。南極は、人間が暖房なしでは生きていけない環境。マクレディ達は"チェックメイト"されたわけです。これに対し、マクレディは基地を爆破することで、相打ちに持ち込みます。面白いですね。


ラストシーンも格好いいです。基地を爆破したマクレディの元に、生き残っていたチャイルズが現れます。確執のあった2人。互いに相手が"物体"に同化されているかどうか分からない状況の中、ウイスキーを酌み交わし、「何が起こるか、ここで待とう」と静かに微笑み合う。


分かりやすいハッピーエンドがアメリカ映画らしいラストと思いがちですが、アンハッピーながらもこれ以上ないくらいアメリカンなラストシーンでした。


ちなみにこのシーン。チャイルズの吐く息が白くならないから"物体"と同化している説がありますがこれは間違い。照明の具合で映らなかっただけだと監督が明言していますし、よく見ると、チャイルズが現れた最初のカットでは白い息が見えます。と言うよりも、そもそも"物体"と同化すると息が白くならないなんて設定がありません。"物体"と同化したベニングスが咆哮するシーンの彼の息、真っ白です(笑)。

 

ここは素直に、"同化しているかいないか分からない"という結末の妙味を楽しむのが正解です。

 

 

最後に

今回は映画『遊星からの物体X』の解説&感想でした。80年代を代表するSFホラーの一作。"物体"という、正体不明の生命体の設定が生きた演出、そのエポックメイキングな造形と、見どころ十分の作品でした。


そう言えば本作、エンニオ・モリコーネが音楽を担当しているんですよね。モリコーネにはなかなか珍しいホラー音楽ですが、ゾワゾワと湧き上がる恐怖を煽るようないい音楽でした。でもこの音楽、ジョン・カーペンターの書く曲の雰囲気に似ているような気も…

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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