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映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』解説&感想 優れた脚本と凄まじい映像体験

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どうも、たきじです。

 

今回は、2023年公開のアメリカ映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』の解説&感想です。

 

2018年公開の『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編で、次作『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』に続く前編となります。

 

 

↓ 前作の解説&感想はこちら

 

作品情報

タイトル:スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース

原題  :Spider-Man: Across the Spider-Verse

製作年 :2023年

製作国 :アメリカ

監督  :ホアキン・ドス・サントス
     ケンプ・パワーズ
     ジャスティン・K・トンプソン

声の出演:シャメイク・ムーア
     ヘイリー・スタインフェルド
     ブライアン・タイリー・ヘンリー
     ルナ・ローレン・ベレス
     ジェイク・ジョンソン
     ジェイソン・シュワルツマン
     イッサ・レイ
     カラン・ソーニ
     シェー・ウィガム
     グレタ・リー
     ダニエル・カルーヤ
     マハーシャラ・アリ
     オスカー・アイザック

上映時間:140分

解説&感想(ネタバレあり)

スパイダーマンの"責任"と"運命"

スパイダーマンは孤独です。まだ子供でありながら、ヒーローとして悪と闘い、時には大切な人を失ったり、世間に誤解されて敵視されたり。しかし、その苦しみを誰にも打ち明けることができません。


スパイダーマンはこれまでにコミック、アニメ、テレビドラマ、映画、ゲームなど、様々なメディアでさまざまなシリーズが作られました。シリーズは違っても、上述の"孤独"は多く場合共通し、スパイダーマンが直面する苦しみは、運命であるがごとく多くのシリーズ繰り返されます。


そうした様々なシリーズを、このスパイダーバース・シリーズにおいては、マルチバースの中の異なる次元とみなしています。前作では、各次元から様々なスパイダーマンが集結し、主人公のマイルス・モラレスと協力して敵を倒しました。

 

そして本作では、各次元のスパイダーマンを集めてマルチバースの秩序を守るべく活動するスパイダー・ソサエティが登場。そこで、マイルスは、多くのスパイダーマンがそうであったように、大切な人(父親)を失う運命にあることを知ります。しかも、その運命に逆らって大切な人の命を救うことはマルチバースの秩序を乱し、世界の崩壊につながることが告げられます。


スパイダーマンに共通するテーマである、"大いなる力には、大いなる責任が伴う"。力を手にした責任と、逆らうことのできない運命。その狭間で苦しむマイルス。映画の外にいる私達にとっては、"スパイダーマンのお約束"である"大切な人の死"が、映画の中の彼らにとっては、"(マルチバースにおける)逆らうことのできない運命"なのです。この設定は見事ですね。


それでも大切な人を救う決断をするマイルス。彼を止めようとするスパイダー・ソサエティのスパイダーマン達が敵になるという展開は非常にエキサイティング。


マイルスは別の次元のクモに噛まれて能力を得たため、スパイダーマンとしてのマイルスの存在自体がマルチバースの秩序を乱すものであるということも告げられ、マイルスの心を乱します。この畳みかけもいいですね。


マイルスがたった一人で運命に立ち向かう中で、グウェンが前作の仲間達を引き連れて、マイルスを助けに向かう激アツのラスト。マイルスが戻ったのは元いた次元とは異なる次元だったという意外性も加わり、ストーリーに大きなうねりを作って次作へ。見事です。

 

グウェンというもう一つの軸

本作では、グウェンがもう一人の主人公としてフィーチャーされています。本作のオープニングは、マイルスではなくグウェンのモノローグから始まります。


グウェンもまた、マイルスと同様に、スパイダーウーマンとしての孤独な闘いに苦しみます。グウェンは親友のピーターを失い、その上、彼を殺したと疑われ警官の父親に追われています。


本作では、そうしたグウェンの内面にも迫りながら彼女の活躍もたっぷりと描いています。父親との和解、そしてスパイダーパンクから送られた"海賊版"によって仲間を集め、"バンド"を結成する上述のラストシーンまで、グウェンのドラマもしっかりと見せてくれます。

 

アニメーションによる映像体験

さて、ここまで脚本の素晴らしさを中心に述べてきましたが、本作が持つ唯一無二の素晴らしさを挙げるとすれば、それは脚本よりもむしろアニメーションにあると言えるかもしれません。


コミックが動き出したかのようなアニメーション表現は前作同様ですが、アクションシーンの迫力はさらに磨きがかかっているように見えます。その目まぐるしい三次元的アクション設計(時間軸を加えた四次元と言うべきか)は素晴らしく、映画を"観ている"というよりも"体験している"と言った方がしっくり来るほどの映像に仕上がっています。


また、グウェンの次元では、印象派の画家の絵の如く筆のタッチが分かるような表現になっていたり、色彩がグウェンの感情に連動するように変化したりします。一方で、別の次元からグウェンの次元に現れるヴァルチャーは、レオナルド・ダ・ヴィンチのスケッチのような、鉛筆風のタッチのセピア調のモノトーンになっています。


このように、アニメーションの表現によって次元を描き分けるという試みは、なかなか新鮮で面白いところです(余談ですが、スティーヴン・ソダーバーグ監督の映画『トラフィック』では、並行して描かれる3つの物語を、映像に異なる色のフィルタをかけることで描き分けるということをやっていました)。


こうした描き分けも含めて、本作のアニメーション表現はかなりアーティスティック。監督が3人体制というのも、多様なセンスが結集したという点で奏功しているのかもしれません。

 

ファンを楽しませる演出

本作は、ある意味でこれまであらゆるメディアで製作されてきたスパイダーマン・シリーズすべてと繋がった作品。数多くのスパイダーマン・シリーズに触れてきた人は特に楽しめる作品であることは間違いないでしょう。マニアの人だと、スパイダー・ソサエティのシーンなんて、画面の隅々まで楽しめるんでしょうね。


あの有名なネットミームのパロディも登場。複数のスパイダーマンが指を差し合う、あれです(1967〜1970年のテレビアニメ『スパイダーマン』のシーズン1第19話「Double Identity」の1シーン)。予告編にも採用され、公開前から話題になりました。


それから面白いのはレゴブロックで構成された次元。ストーリーに直接絡むことはなく、マルチバースの1つとして登場する些細なシーンですが、実はこのシーンを担当したのは14歳の少年。本作の初期の予告編をレゴで再現した動画を作成しSNSにアップしたところ、それが本作のプロデューサーの目に留まり、本編のシーンを手がけることになったとか。何と夢のある話でしょう。

 

本作のプロデューサーはフィル・ロードとクリス・ミラー。レゴをモチーフにしたCGアニメの名作『LEGOムービー』の監督です。同作は、自由な発想でレゴを組み立てて遊ぶイマジネーションやクリエイティビティを肯定する作品でしたが、この出来事は同作のメッセージを身をもって示したような話ですよね。

 


過去の実写映画との繋がり

さて、ライトなファンでも楽しめるのは、過去の実写映画との繋がりを感じさせるシーンでしょう。サム・ライミ監督の『スパイダーマン』シリーズや、マーク・ウェブ監督の『アメイジング・スパイダーマン』シリーズは、背景に流れるアーカイブ映像として、映画本編に取り入れられています。


また、スポットがマルチバースを行き来するシーンでは、映画『ヴェノム』の次元が実写で登場。コンビニ店主のチェン(ペギー・ルー)がアニメーションで描かれたスポットと掛け合いを見せます。


また、スパイダー・ソサエティのシーンでは、拘束されたアーロン・デイヴィス/プラウラーが実写で登場。演じているのは、MCUでアーロンを演じたドナルド・グローヴァーです。MCUではアーロンはプラウラーになっていないので、彼がMCUの次元から来たとは言えませんが、これは明らかにMCUを意識したキャスティングですね。

 

最後に

今回は、映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』の解説&感想でした。キャラクターの内面に迫りながら、マルチバースの設定を最大限活かしたエキサイティングなストーリー。そして、凄まじい映像体験を提供するアニメーション表現。次作への期待の高まる素晴らしい第二作でした。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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