どうも、たきじです。
今回は2002年公開の短編アニメ映画『頭山』の解説&感想です。同名の古典落語(上方落語においては『さくらんぼ』)を原作とした作品で、アカデミー賞の短編アニメ賞にノミネートされるなど、世界的に評価されています。
↓ YouTubeで公式に無料公開されています。
作品情報
タイトル:頭山
製作年 :2002年
製作国 :日本
監督 :山村浩二
声の出演:国本武春
上映時間:10分
あらすじ(結末までネタバレあり)
ケチな男が、拾ってきたさくらんぼを食べます。男は、もったいないからと種まで食べてしまいます。やがて男の頭から芽が出て、桜の木に成長。春になると綺麗な花を咲かせます。
すると男の頭に花見客が押し寄せるようになります。苛立った男は、桜の木を抜いてしまいます。しかし、木を抜いたために頭には穴が空いてしまい、そこに水が溜まって池ができます。すると今度は、釣りや泳ぎを楽しむ人が集まるようになります。
男は気が触れて、自分の頭の池に身を投げて死んでしまいます。
見どころ
本作には上記のあらすじを踏まえて、2つの見どころがあります。
1つは、「どう映像化するのか?」という点。頭の上で花見が始まるとか、自分の頭の池に身投げするとか、映像がない落語だからこそ成立したカオスな物語をどうアニメで映像化するのか?ということです。
もう1つは、「観客に何を感じさせるか?」と言う点。落語というものは、聴き手が頭の中で映像を思い浮かべることが前提となっています。それ故に、本作の原作の落語の場合、現実には起こり得ない、映像化不可能な展開が笑いになるわけです。「頭の上で花見…いやいやw」、「自分の頭の池に身投げ…っておいw」という感じです。
だからこそ、「死」という深刻な事態がオチにも関わらず、笑いとして昇華されるんですね。桂枝雀の「緊張の緩和」理論で言えば、「死」という緊張が、「んなわけあるかい!」で緩和されて笑いになると言えるでしょう。
映像化不可能であることが笑いになっていたものを、本作では映像化してしまうわけですから、それによって観客に何を感じさせるのか、これが見どころというわけです。
解説&感想(ネタバレあり)
手書きの筆跡が見えそうな、ある種の荒々しさを持ったタッチで描いたアニメーション。そこに浪曲師の国本武春による語りと三味線が重なります。古風にも映る作画に、浪曲という演芸が交わることで、本作は原作の落語のニュアンスも多分に残した作品になっています。
そして、上で見どころとして挙げた「どう映像化するのか?」「観客に何を感じさせるか?」について。まず、頭の上に観衆が集まる様子をどう描いたか。本作では、頭に木の生えた男の様子と、頭の上に観衆が集まった様子を別次元のように切り分けて描くことで表現していています。これは「頭の上で花見…いやいやw」という、落語を聴いた印象にかなり近い印象です。
頭の上の木におじさんが立ちションをして、男の頭から汗のように尿が流れてくる描写や、酔っぱらいが脱いだ革靴が男の食べているカップ麺の中に(原寸大で)飛び込む描写が、現実次元と頭上次元につながりを持たせています。
そして最大の見どころであるラストシーン。今度は頭の上の池に集まってきた観衆達に耐えかねた男は、発狂したかの如く夜の街を駆け出します。映画冒頭から、背景にそびえるぐにゃぐにゃと曲がったビルが異様でしたが、このシーンでは夜の摩天楼の集合体として男の背景にそびえ、さらに不安を煽るかのようです。
そして男はいつしか自分の頭の上に迷い込むのです。頭の上にいる自分、その頭の上にいる自分、その頭の上に…。合わせ鏡の如く無限に繋がっていく映像。激しく重なる三味線の音色。男の焦燥が極まった時、男は身を投げるのです。
アニメーションならではの鬼気迫る表現には唸らされました。「死んじまった」という語りは、気の抜けたような声で発せられますが、落語のように笑いに至るようなものではないでしょう。落語では、「自分の頭の池に身投げ…っておいw」と笑いになるところ、本作では、どちらかと言えば『世にも奇妙な物語』よろしくミステリアスな感情を観客に抱かせます。また、本作の場合は、オチを笑いとして昇華していない分、男の死に対して、物悲しさや憂いを残すようにも感じました。
皆さんはどう感じたでしょうか?
最後に
今回は短編アニメ映画『頭山』の解説&感想でした。
話芸で噺を聴かせることで場面を想像させるのが落語なので、それを映像化するのは野暮だと考えてしまいがちですが、考えてみれば小説を映画にするのも同じこと。単に物語の題材が同じであるだけであり、小説には小説の、映画には映画の良さがあります。同様に、落語には落語の、アニメにはアニメの良さがあるはずで、本作もそこを楽しめばいいのでしょうね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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