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映画『生きる』解説&感想 黒澤明×志村喬の渾身の一作

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どうも、たきじです。

 

今回は映画『生きる』の解説&感想です。

 

監督・黒澤明×主演・志村喬による人間ドラマの傑作。市役所の市民課長として空虚な日々を送ってきた男が、胃癌により余命いくばくもないことを知り、残された命で公園の建設に尽力する物語です。

 

作品情報

タイトル:生きる

製作年 :1952年

製作国 :日本

監督  :黒澤明

出演  :志村喬

     小田切みき

     藤原釜足

     日守新一

     金子信雄

 上映時間:143分

 

解説&感想(ネタバレあり)

主演の志村喬は数々の黒澤映画に出演していますが、本作の彼は、他のどの映画の彼とも違うものでした。彼のリアリティ溢れる演技は、鬼気迫るものがあります。


映画のストーリーとしては前半と後半に大きく分かれます。前半は、とにかく陰鬱な空気感で物語は進みます。


職場では、市民課長として判を押すだけの仕事。市民からの陳情は他の課へたらい回し。部下からは、いてもいなくても変わらない存在として見られています。


やがて自分が胃癌を患っていることを知り、今までの生き方を振り返りつつ絶望する渡辺。早くに妻を亡くし、一人息子を一人で大切に育てて来ましたが、息子からは軽んじられ、嫁からは疎まれています。


仕事を無断欠勤して金を使って遊ぶも気分は晴れず。家族からは女を作って浪費していると思われます。


そんな風に、とにかくネガティブな描写が畳み掛けられ、渡辺の絶望が丁寧に描かれます。


個人的にうならされたのは、渡辺が胃癌を知った後の、自宅での1シーン。2階から自分を呼ぶ息子の声を聞き、急いで階段を上がろうとしますが、「下の戸締り頼みます」とぶっきらぼう放たれた声が聞こえてきます。


階段下の深い闇の中、階段に突っ伏す渡辺。渡辺の息子への感情と深い悲しみが表現されています。


全てに絶望する渡辺に対し、かつての部下が「何か作ってみたら」と提案します。それに対し、


「もう…、遅い…」


30秒以上の長い間があって、


「いや、遅くない」


物語が動き出す瞬間です。


隣で行われている誕生パーティの"ハッピーバースデー"の歌が、あたかも渡辺に向けられているように歌われます。


そう言えば、渡辺が浪費して遊ぶシーンで、小説家の男の台詞に以下のようなものがありました。


「マダムなんざ胃癌と宣告されたらその瞬間から死んじまうよ。ところがこの人は違うんだ。その瞬間から生き始めたんだ


この時の台詞は、「これまでの人生で遊ぶことをしなかった渡辺が、人生を楽しみ始めた」という文脈で放たれたものでした。一方、上述の"ハッピーバースデー"のシーンでは、今までミイラのようだった渡辺が、生きる意味を見つけた瞬間であり、この瞬間こそが、本当に"生き始めた"瞬間と言えるでしょう。この"ハッピーバースデー"は、新しく生き始めた渡辺の誕生を祝福する歌です。


ここで"ハッピーバースデー"を使うのは、少々安易な気がしなくもないです。しかし、公園建設に動き出す次のシーンで、BGMとして再び流れる"ハッピーバースデー"は、確かに心に響くものがありました。

 


そして映画後半では、渡辺の通夜における同僚達の回想という形で、公園建設のために尽力した渡辺の姿が描かれます。


断片的な回想からでも、渡辺が公園の建設にいかに心血を注いだかが容易に想像でき、感動させられます。


渡辺は、公園建設を実現しながらも、市の上層部の連中に手柄を横取りされた形になります。そして、その公園で1人寂しく亡くなったといいます。


そんな浮かばれない話の中、警察官がお焼香を上げに来ます。渡辺が亡くなる前に、公園にいる彼を見たというその警察官は言います。


「あんまり楽しそうだったから」

「しみじみと歌を歌っておられたんです。それは不思議なほど、心の奥底まで染み渡る声で」


この言葉を聞いて私は涙しました。彼は1人寂しく亡くなったのではなかった。彼が(第2の)人生を捧げて建設した公園で、第2の人生を真っ当して亡くなったのです。


そんな感動が込み上げてくる中、画面には、公園で亡くなる前の渡辺の姿が映し出されます。雪が舞う公園、ゴンドラの唄を口ずさみながらブランコを漕ぐ姿。何とも美しい映像です。


現状を打破し、何かを変えること。これは本当に難しいことです。ラストで描かれるように、通夜では渡辺の行動に奮起させられながらも、結局は変われない市民課の面々。これが現実です。

 

しかし、それと同時に、子供達の笑顔で溢れる公園もまた、尽力の結果として生まれる確かな現実でしょう。


私が本作を初めて見たのは学生の時で、その時も感動しました。ですが、社会に出て10年以上経ち、様々な現実を身をもって体験した今見ると、さらに心を動かされるものがありました。


「生きる」とは本当にいいタイトルをつけたものです。


私は今、生きているだろうか?

 

 

最後に

今回は映画『生きる』の解説&感想でした。

 

こういう"人の生き様"を描いた作品というのは、本当に力を与えてくれます。また数年後に鑑賞しようと思います。


そう言えば10年以上前に、本作をトム・ハンクス主演でハリウッドでリメイクするという話がありました。どうなったのかと調べてみましたが、その後特に動いていないようですね。


残念だなと思っていたら、ビル・ナイ主演でイギリスでリメイクするようで。脚本はカズオ・イシグロ。期待して待ちましょう!

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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