どうも、たきじです。
今回は2008年公開の映画『スラムドッグ$ミリオネア』の解説&感想です。アカデミー賞で作品賞を始め8部門を受賞するなど、この年を代表する映画でした。
作品情報
タイトル:スラムドッグ$ミリオネア
原題 :Slumdog Millionaire
製作年 :2008年
製作国 :イギリス、アメリカ
監督 :ダニー・ボイル
出演 :デーヴ・パテール
マドゥル・ミッタル
フリーダ・ピントー
アニル・カプール
イルファーン・カーン
上映時間:120分
解説&感想(ネタバレあり)
「クイズ$ミリオネア」をフィーチャー
ムンバイのスラムで育った青年ジャマールは、人気クイズ番組「Kaun Banega Crorepati」に出演し、あと1問で最高賞金2000万ルピー獲得というところまで辿り着きます。しかし、スラム育ちのジャマールがここまでクイズに正解し続けたことで不正を疑われ、ジャマールは警察の取り調べを受けることになります。
ジャマールは、自分は不正などしておらず、ただ答えを知っていただけだと訴えます。そして、彼はなぜここまでの問題の答えを知っていたか、少年時代を回想し始めます。
本作でジャマールが出演したクイズ番組はイギリスのクイズ番組「Who Wants to Be a Millionaire?」のインド版。同クイズ番組のフォーマットは世界中に輸出されており、日本では2000〜2007年に「クイズ$ミリオネア」として放送されました。映画の邦題に含まれる"$"はこの日本版の番組タイトルにちなむものでしょう(原題は単に"Slumdog Millionaire")。
それにしても番組が終わってもう16年ですか。最近の若者はこの番組知らないんですね。この番組で用いられた「ファイナルアンサー」って言葉が当時流行ったんですよ。"Final Answer"の略語である"FA"は、"◯◯ってことでFA?"って感じでネットスラングにもなりました。これもすでに死語ですかね?
ところで、「クイズ$ミリオネア」の最高賞金は1000万円でした。インド版「Kaun Banega Crorepati」の当時の最高賞金2000万ルピーは、映画公開時のレートで約4100万円、本場イギリス版の100万ポンドは約1億7000万円ということで、日本版より随分と夢のある金額でした。
巧みなストーリー構成
本作は、子供達がスラムを走るシーンを始めとして、撮影や編集による疾走感溢れる演出が決まっていて映画に軽快なリズムを生んでいます。観客を映画にぐいぐい引き込むそうした演出も素晴らしいですが、本作の1番の魅力は巧みなストーリー構成にあります。
本作は、取り調べ、クイズ番組、幼少期からの回想という3つの時間軸を巧みに織り交ぜて描かれています。主軸となるのは、回想の時間軸。この回想は、ジャマールがクイズの答えを知っている理由を説明するためのもの。ですが、映画においては、ジャマールの生い立ちと、ラティカとのロマンスを描きこむ役割も果たしています。これにより、観客は映画に引き込まれ、クライマックスにかけてジャマールに感情移入していきます。
最後には3つの時間軸が1つにまとまり、ジャマールが最終問題に挑むクライマックスに帰結していきます。
2000万ルピーをかけたクイズの結末も大事ですが、ジャマールが番組に出たのは、大金を得るためというよりもラティカに自分を見てもらうため。最終問題においてライフラインの"テレホン"でラティカとつながり、クイズの答えのことよりもラティカとの会話を噛み締めるジャマール。番組特有のルールを映画的演出としてうまく機能させています。
ジャマールが最終問題に挑むために番組に向かっている時、ジャマールの兄サリームはラティカをボスの元から逃しジャマールの元へ向かわせます。そして、サリームは自らの手でボスを殺し、やがて自らも手下達に殺されます。最終問題を正解しミリオネアに輝くジャマールと、2人の幸せを願いつつすべてを終わらせ、自らは破滅へと向かうサリーム。このクロスカッティングは痺れました。
そして最後には、映画冒頭で表示されたクイズ(「彼はあと1問でミリオネア。なぜ勝ち進めた?」)の答えが表示されます。
D: 運命だった
見事な締めでした。
映画が映し出すスラムの闇
本作では、発展途上国のスラムの闇が描かれています。日本では信じられませんが、海外では子供が集団で物乞いしたり犯罪に及んだりという光景は珍しくありません。される側からしたら迷惑でしかありませんが、本作では、そのような環境に身を寄せるしかない子供達の目線で描くことで、彼らを生み出す社会の暗部が描かれています。
レバノンのスラムを描いた『存在のない子供たち』のような社会派作品とは違い、本作の場合は基本はエンターテインメント性を重視した映画。それ故に、スラムの問題をさほど深掘りしてはいるわけではないものの、観客にこの問題に目を向けさせるだけの力はあったのかなと思います。
ボリウッドへのオマージュ
本作はインドを舞台としたインド人の物語ではありますが、イギリス資本の映画。そうではありますが、エンディングに流れる出演者達によるダンスシーンはインド映画へのオマージュですね。インド映画、すなわちボリウッドの映画は、劇中に歌って踊るシーンが挿入されるのが定番。ここで流れる"Jai Ho"はアカデミー賞で歌曲賞を受賞するなど大変評価されています。
『RRR』がヒットしているように、近年日本でも人気のインド映画。インド映画が日本でポピュラーになる一つのきっかけは2009年公開『きっと、うまくいく』の成功でしょう。が、その前年に公開された本作が、『きっと、うまくいく』の前のジャブとしてうまく機能したと、私は思っています。
最後に
今回は映画『スラムドッグ$ミリオネア』の解説&感想でした。撮影や編集による疾走感溢れる演出もさることながら、ストーリー構成の素晴らしさの魅力溢れるオスカー受賞作品でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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