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映画『キートンのセブン・チャンス』解説&感想 キートンが婚活するドタバタ喜劇

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どうも、たきじです。

 

今回は映画『キートンのセブン・チャンス』の解説&感想です。映画黎明期の喜劇王バスター・キートンが監督・主演を務めた長編作品として第五作にあたる作品です。

 

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※作品の著作権保護期間は終了し、パブリックドメインとなっています。

 

作品情報

タイトル:キートンのセブン・チャンス

     キートンの栃麺棒(別題)

原題  :Seven Chances

製作年 :1925年

製作国 :アメリカ

監督  :バスター・キートン

出演  :バスター・キートン

     ロイ・バーンズ

     スニッツ・エドワーズ

     ルス・ドワイヤー

上映時間:56分

 

解説&感想(ネタバレあり)

婚活するキートン

バスター・キートン演じるジミーは証券会社の共同経営者ですが、詐欺に引っかかり財政破綻の危機にあります。そこに祖父からの遺産相続(700万ドル!)の話が舞い込みます。ただし、条件は27歳の誕生日の午後7時までに結婚すること。そして、なんとその日が27歳の誕生日当日。経営パートナー(ロイ・バーンズ)と弁護士(スニッツ・エドワーズ)から、「まだ間に合う」と発破をかけられ、ジミーは急いで結婚相手を探すことになります。本作は、ざっとそんなあらすじ。言わば、キートンが婚活するお話です。


タイトルの「セブン・チャンス」は7回のチャンスの意。ジミーが結婚相手を探してカントリークラブを訪れると、そこに知っている女性が7人いたことにちなみます。ただ、この女性達にはあっという間にフラれるので、これをタイトルにしたのはいかがなものか?(原題もそうですが)


ちなみに、別題(初公開時)は『キートンの栃麺棒』。"栃麺棒"とは聞き慣れない言葉ですが、辞書を引くと"慌てもの"の意。結婚を慌てる人は多いですが、確かにここまで慌てる人はなかなかいません(笑)

 


数が物を言うスラップスティック

ジミーは、もともとメアリー(ルス・ドワイヤー)という女性に心惹かれていますが、気持ちを伝えられずにいました。映画冒頭では、2人が懇意になりつつも、ジミーが告白できぬうちに、季節が移ろいます。それに伴い、仔犬だったメアリーの犬がすっかり成長していくというささやかなユーモアが描かれます。


このオープニングに象徴されるように、本作の笑いは、前半では比較的大人しめな印象を受けました。口説いた女性達にひたすらフラれる描写や、口説こうと近づいたら既婚だったり、子連れだったり、マネキンだったりといった描写も、ドタバタしない控えめな笑いです。


それが映画後半になると、一気にドタバタしたスラップスティックに変わります。

 

ジミーの経営パートナーと弁護士が、ジミーの結婚相手を探すために、新聞に花嫁募集の広告を載せたことから、花嫁候補が殺到するという展開の妙。自動車で、馬で、自転車で、集合場所の教会に入りきれないほどの女性が詰め掛けます。


しかし、牧師が「皆さんは騙されている」とあしらったことから、怒った女性達はジミーを追い回します。このあたりの描写は、面白さと同時に怖さがあります。レンガ持った女性達が追いかけてくるなんて、完全にホラーですよね(笑)。暴徒化した女性達は、電車を占拠してジミーを追いかけたり、クレーンでジミーをぶら下げたりとやりたい放題です。


さらには、ひたすら逃げてたどり着いた岩場の崖を駆け下りるジミー。転がってくる無数の岩。なんでこんなに岩が転がってくるのか謎ですが、そんなことはもはやどうでもいいのです!大勢の女性達と無数の岩から逃げて走るキートン!このクライマックスにかけてのスピード感は見事なものでした。


何百人というエキストラを使い、数に物を言わせたスラップスティック。キートンは、1922年の短編『キートンの警官騒動』で、すでにこれをやっています。


この点について、本作は本作で良かったですが、出来は『警官騒動』の方が上です。『警官騒動』では、キートンはただ逃げ回るだけでなく、様々な形で追手に対して"反撃"を見せ、それが多数の笑いを生んでいましたが、本作では逃げ回るだけ。また、『警官騒動』は短編である分、ギャグの密度も濃いですが、本作はちょっと間延びしている印象もありました。

 

ちょっと惜しい結末

上述の通り、オープニングではジミーとメアリーのぎこちないロマンスが描かれます。そして、結婚相手を探すことになった時、ジミーは真っ先にメアリーのところに行きます。プロポーズ(の練習)をするジミーに対して、メアリーは承諾します。しかし、ジミーが遺産の件をメアリーに話したことで、お金の為にプロポーズされたと感じたメアリーは傷つき、拒絶します。ジミーはお金のことよりもメアリーを失ったことに意気消沈。メアリーは思い直してジミーに電話しますが繋がらず、代わりに想いを込めた手紙を使用人に託します。


「今日の19時までに結婚しないと遺産が手に入らない」という設定に加えて、惹かれ合っているはずのジミーとメアリーのすれ違いのストーリーがしっかりと仕込まれた上でのスラップスティック。当然、結末への期待は高まるところですが、このストーリーの処理の仕方はちょっと惜しい感じです。


ジミーは、追ってくる女性達を振り払い、ボロボロになりながらメアリーの家に着きますが、時間は7時を過ぎています。お金がなくても幸せになれると言うメアリーに対し、ジミーは君を巻き添えにはできないと答えます。ところが、実はまだ7時前だったことが分かり、2人は無事に結婚します。

 

結果だけ見るとハッピーエンドですが、結局お金がないと結婚できない(お金が手に入ったから結婚できた)という結末はどうなんでしょう?この手のコテコテの娯楽作品で、そこを変に現実的にすることないじゃないかと思ってしまいました。


我々は映画を見る時、登場人物が努力や工夫によって困難を乗り越える姿を見て、感動したり興奮したりするものです。貧しくても一緒に乗り越える決意(精神的な努力)をして結婚した上で、ジミーは7時に間に合うようにたどり着いていて(肉体的な努力)、お金も手に入るという、二重のハッピーエンドが見たかったな。ましてや本作の場合、上述の通り、惹かれ合う2人が結ばれないもどかしさをしっかり描いていたんですから、綺麗に落とさないともったいないですよ。

 


現代の価値観には合わない描写?

本作は100年近く前の作品なので当然と言えば当然ですが、現代の価値観には合わない描写も見られます。ジミーが結婚相手を探して、目に入った女性をひたすら口説いていくシークエンスです。

 

口説こうと近づいたら外国語の新聞を広げたのを見て立ち去ったり、顔を見たら黒人だったので立ち去ったり、女優の看板を見て劇場に入ったら実は女装した男性俳優(実在の女装俳優Julian Eltinge)だったりといった描写は、多様性の尊重が声高に叫ばれる現代では、"差別的だ"、"放送禁止だ"と炎上することが予想されます。


"女装俳優"に関しては、そもそも法的に結婚できないでしょうし、相手から拒まれて帽子を破壊されるというギャグとして成立しているので、本人の許可さえあるなら問題はない気もしますが、"外国人"と"黒人"に関しては、やや問題がありそうです。ジミーは"誰でもいいから"結婚相手を探しているにも関わらず選り好みをしているわけで、しかもそれがみんなが笑える(共感できる)ギャグとして演じられています。これには、作られた時代を考慮しても、やや不快感を覚える人もいるかもしれません。


まあ、個人的にはそれほど過敏になることはないと思いますし、ここまで古いと、当時の感覚を知る教材くらいに考えればいいと思いますけどね。

 

最後に

今回は映画『キートンのセブン・チャンス』の解説&感想でした。ストーリーの結末などに残念な部分はありますし、全体的には及第点といったところですが、後半のスラップスティックは、キートンファンなら一度は見ておくべきだと思います。

 

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