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映画『1917 命をかけた伝令』解説&感想 全編ワンカットで見せる戦争

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どうも、たきじです。

 

今回は映画『1917 命をかけた伝令』の解説&感想です。サム・メンデス監督が送る、全編ワンカットの映像が話題の戦争映画です。

 

作品情報

タイトル:1917 命をかけた伝令

原題  :1917

製作年 :2019年

製作国 :イギリス、アメリカ

監督  :サム・メンデス

出演  :ジョージ・マッケイ

     ディーン=チャールズ・チャップマン

     マーク・ストロング

     コリン・ファース

     ベネディクト・カンバーバッチ

 上映時間:119分

 

解説&感想(ネタバレあり)

命をかけた伝令

映画の舞台となるのは1917年4月6日。第一次世界大戦下、イギリス軍はドイツ軍と激しい戦闘を繰り広げています。イギリス軍の兵士であるブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)とスコフィールド(ジョージ・マッケイ)はエリンモア将軍(コリン・ファース)に呼び出され、特別な任務を与えられます。それは、撤退するドイツ軍を追って攻撃しようとしている第2大隊に、攻撃の中止を伝えること。


ドイツ軍の撤退は戦略的なものであるとみられ、要塞を築いて待ち構えるドイツ軍によって第2大隊は壊滅的な被害を受ける恐れがあるためです。電話線はドイツ軍によって切断され、連絡手段はありません。ブレイクとスコフィールドは、第2大隊の被害を食い止めるため、危険な戦場を突破し、翌朝に攻撃を仕掛けようとしている第2大隊の元を目指します。


本作はざっとこんなストーリー。言うまでもなく、邦題の副題"命をかけた伝令"は彼らの任務を指しています。原題は単に『1917』。邦題の副題は作品の内容を表したものとして間違ってはいませんが、個人的には、原題にはない"余計な一言"はあまり好きではありません(『フォレスト・ガンプ 一期一会』とか)。


本作のストーリーはフィクションですが、サム・メンデス監督が祖父のアルフレッド・H・メンデスから伝え聞いた話を元にしたものだと言います。エンド・クレジットで、本作は彼に捧げられています。


エリンモア将軍役のコリン・ファースの他、スミス大尉役のマーク・ストロング、マッケンジー大佐役のベネディクト・カンバーバッチなど、イギリスを代表する俳優がカメオ出演しているのも見どころです。


全編ワンカットの撮影

本作の最大の魅力は、全編ワンカット(正しくはワンカット"風"ですが、ここではワンカットとします)の撮影にあることは揺るぎないでしょう。そこを好意的に感じられるかどうかで、本作への評価は変わると思います。


全編ワンカット撮影というと、1948年公開の『ロープ』でアルフレッド・ヒッチコック監督が行ったのが最初として有名ですが、その後もそうした映画はいくつかあります。比較的最近では、アカデミー賞で作品賞を受賞した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)もその一つです。


そんな中で、本作がそれらの作品と一線を画すのは、本作の舞台が戦場であること、そしてそれが、全編ワンカット撮影を用いる必然性を生んでいることにあります。

 


凄まじい臨場感

まず一点目は、臨場感という点。ワンカット撮影の効果としてまず挙げられるのは臨場感ということになりますが、それは戦場という緊迫感のある舞台において、より一層際立ちます。アクション系の長回しというと『トゥモロー・ワールド』のクライマックスが思い浮かびますが、それを全編でやるのはかなり大胆な試みと言えるでしょう。


特に目を見張るのはオープニング。のどかな草原の風景に始まり、休息するブレイクとスコフィールドがフレームイン。軍曹に呼ばれて歩き出す2人をカメラが追いかけると、くつろぐ大勢の兵士達、さらには戦闘の準備をする兵士達がフレームインし、やがて塹壕へと入っていきます。そして彼らは任務を与えられ、前線へと進んでいきます。


平和の象徴のような美しい風景から、殺伐とした前線へとシームレスに繋がることで、戦場の全体像や空気感が伝わってきて、圧倒的な臨場感を与えられます。


そして、忘れてはならないのがクライマックス。今にも突撃しようとしている大隊を止めるために、スコフィールドは危険を顧みず、塹壕から出て走り出します。やがて突撃を始める兵士達をかき分け、ひたすら走ります。このシーンはストーリーの盛り上がりと臨場感ある映像表現がばっちり重なり、鳥肌もののシーンになっています。


やはり第一次世界大戦と言えば塹壕戦。本作で強く印象に残るシーンも、やはりオープニングとクライマックスの塹壕のシーンでした。


スコフィールドへの感情移入

本作にワンカット撮影を用いる必然性の2点目は、主観的映像によって、観客をスコフィールドに感情移入させることにあります。


普通の映画では、主人公のいないシーンも当然あるわけですが、本作ではカメラはずっとスコフィールドを追いかけます。つまり、作品中の2時間でスコフィールドが体験する全てを、観客も共に体験するのです。


過酷な状況の中で、なぜ自分がこの任務に就かなければならないのかという疑問を抱き、戦友を突如失った悲しみを癒す間もなく目的地を目指し、負傷しながらも任務を遂行する、その様に、ぐいぐいと引き込まれていきます。


スコフィールドが無事に伝令を果たし、攻撃を中止させたことで、大隊の壊滅を止めることができました。多数の命が救われた一方で、多数の負傷兵の姿を見ると、もう少し早ければとも感じてしまいます。


オープニングのシークエンスを遡るように、激しい戦闘が行われていた塹壕を離れていくと、そこにはのどかな大草原が広がっています。ブレイクの兄に彼の遺品を渡した後、オープニングと同じように木を背にして腰掛け、家族の写真を見つめるスコフィールドは何を思うのでしょうか。

 


戦争の不条理

第一次世界大戦を題材とした作品と言えば、第1回アカデミー賞作品賞受賞の『つばさ』(1927)、第3回アカデミー賞作品賞受賞の『西部戦線異状なし』(1930)、スタンリー・キューブリック監督の『突撃』(1957)など名作揃いですが、そうした作品の多くが戦争の不条理を描いてきました。娯楽映画としての側面も持つ本作においても、戦争の不条理が感じられる描写は少なくありません。


観客はスコフィールドの目を通して、戦場の悲惨さ、突然友を失う悲しみや恐怖を目の当たりにします。そこから炙り出されるのは、人と人とが殺し合う戦争の馬鹿馬鹿しさ。


すでに述べたように、オープニングにしても、このエンディングにしても、美しい草原の風景と血生臭い戦場がシームレスに繋がります。平和と隣り合わせに存在する戦争。これもまた、不条理をひしひしと感じさせます。


それにしても、これだけ力を持った作品が昔から多数ありながら、未だに世の中から戦争が無くならないのは悲しい限りですね…


スタッフ&キャストの努力の賜物

さて、上でも触れましたが、本作は実際には全編ワンカット撮影ではありません。この手の作品では、ワンカット撮影に見えるように、異なるショットをうまく繋いでいます。


ヒッチコックの『ロープ』では、ところどころで登場人物の背中がアップになるなどして、そのタイミングでカットしていました。現在では、デジタルで異なるショットを自然につなぐことも可能になっていて、ヒッチコックの時代よりはバレないようにカットする自由度は高まっています。


それでも基本的には暗闇に入ってブラックアウトした瞬間や、爆風で映像が乱れた時にカットするのが基本でしょうから、どうしても各ショットはいずれも長回しになってしまいます。スタッフとキャストの苦労は想像に難くありません。計算され尽くしたカメラワークとキャストの演技の呼吸も、普通の映画以上に重要になるでしょう。


それで出来上がったのが、この作品。上述の通り、ワンカット撮影が抜群の効果を生んでいます。アカデミー賞撮影賞受賞は文句なし。撮影のロジャー・ディーキンスが素晴らしいのは言うまでもないですが、監督のサム・メンデスの力も大きいでしょう。サム・メンデス監督作品がアカデミー賞撮影賞を受賞するのは、『アメリカン・ビューティー』、『ロード・トゥ・パーディション』に続いて本作で3度目になります。 

 

 

最後に

今回は映画『1917 命をかけた伝令』の解説&感想でした。とにかく撮影の素晴らしさが前面に出ているので、そこを好意的に感じられれば楽しめること間違いなしの作品です。"全編ワンカットで戦争を描く"というアイデアだけに終わらない、素晴らしい作品でした。

 

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