映画黎明期の1920年代に活躍した喜劇俳優バスター・キートン。同時代の喜劇俳優チャールズ・チャップリン、ハロルド・ロイドと共に三大喜劇王なんて言われています。当ブログでも、彼が監督し主演した作品の解説&感想の記事を10本以上アップしてきました。
並外れた身体能力を駆使し、体を張ったアクションとセンスの良いユーモアで人気を集めたバスター・キートン。しかし、少なくとも日本においては、チャップリンに比べると圧倒的に知名度が低い印象です。
そこで、今回はバスター・キートンの魅力について解説すると共に、彼が監督・主演した長編作品のレビューをまとめたいと思います(ここではネタバレなしで記載します。ネタバレありの解説&感想はリンク先の個別記事をご覧ください)。
各作品のおすすめ度も記載しますので、気になる作品をぜひご覧いただければと思います。作品の著作権保護期間は終了し、パブリックドメインとなっていることもあり、YouTubeにも作品が多数アップされています(各作品の個別記事よりご覧ください)。
バスター・キートンの魅力
上述の通り、チャールズ・チャップリンは知っていてもバスター・キートンは知らないという人は多いと思いますので、ここではチャップリンと比較して、キートンの魅力を解説したいと思います。
まず、チャップリンの作品は、コメディの中に悲劇や感動を盛り込み、高いドラマ性を持っていることが特徴です。時には鋭い社会風刺や政治的なメッセージを込めることもあり、社会派とも言える作風です。
これに対しキートンは、コメディの中に体を張ったアクションを織り交ぜるのが特徴です。キートンが演じる役柄は、基本的に"ダメなやつ"であることが多いですが、クライマックスに人が変わったように見事なアクションを見せ、大活躍します。そして、そのアクションが観客を笑わせつつ興奮させるのです。このように、キートンはとにかく娯楽に徹した作風と言えます。
こうした作風の違いは、ラストシーンの特徴にも現れています。チャップリン作品の場合は、彼が演じる放浪者がドタバタを繰り広げた後、一人で去っていくという哀愁漂うラストシーンが多いです。
一方、キートン作品の場合は、基本的にめでたしめでたしのハッピーエンド。それを、センスの良いユーモアで描きます。落語でいうサゲのように「うまい!」と唸ってしまう笑いで締めくくるのです。
また、表情豊かなチャップリンと違って、キートンは無表情。それは、"The Great Stone Face(偉大なる無表情)"と形容されるほど、彼の大きな持ち味となっています。そして、そんな無表情で命懸けのアクションをこなす様子がまた滑稽に映るのです。
長編作品レビュー
バスター・キートンの映画人生を、以下の4段階に分けてみました(①デビュー期、②成長期、③成熟期、④衰退期)。ここで紹介するのは、「③成熟期」に位置付けた12作品になります。
①デビュー期(1917〜1919年頃)
当時の人気喜劇俳優ロスコー・アーバックルの主演映画の脇役として多数出演していた時代。
②成長期(1920〜1923年頃)
監督・主演で、多数の短編映画を撮影していた時代。
③成熟期(1923〜1929年頃)←今回の対象
監督・主演で、長編映画を撮影していた時代。
④衰退期(1930年頃〜)
MGMとの契約による映画製作システムの変化や、サイレント映画の衰退により、人気が衰退していった時代。
キートンの恋愛三代記(1923)
別題: 滑稽恋愛三代記
おすすめ度: ★★★★☆
石器時代、古代ローマ時代、現代という3つの時代の愛の物語。3つの時代で同一プロットを並行して描き、時代ごとの特徴を生かしたギャグ満載で綴られたラブコメディです。
完成度の高いギャグの密度は後の長編に比べてさほど高くないですが、3つの時代を並列に描く構成も相まって、なかなかに"見れる"作品です。
荒武者キートン(1923)
別題: キートンの激流危機一髪!
おすすめ度: ★★★★☆
敵対する家の男女が恋仲になったことから繰り広げられるドタバタ喜劇。実際に19世紀のアメリカで起こったハットフィールド家とマッコイ家の争いをモチーフにしています。
なかなか凝ったストーリー展開が生む笑い、大規模なロケーションでのダイナミックなアクションが見どころで、前作より完成度の高い作品です。
キートンの探偵学入門(1924)
別題: 忍術キートン
おすすめ度: ★★★★★
探偵に憧れる冴えない映写技師が、映画のスクリーンの中に入り込んで名探偵シャーロックJr.として活躍する物語。最高のコメディと最高のアクションを開拓してきたキートンの魅力が詰まった代表作です。
センスのいいユーモアとスラップスティックで畳みかけられる笑い、あっと驚く演出、命懸けのアクロバットなど、あまりに見どころの多い作品。キートン初心者にもおすすめです。
海底王キートン(1924)
おすすめ度: ★★★☆☆
金持ちのボンボンが、富豪の令嬢と蒸気船に2人きりで漂流する物語。映画の内容からすると"?"な邦題ですが、当時としては画期的だった海底シーン(湖の底に潜って撮影)にちなみます。
船上というシチュエーションで繰り広げられるドタバタ喜劇や活劇は十分に見どころがありますが、キートンの他の作品に比べると全体として物足りない作品です。
キートンのセブン・チャンス(1925)
別題: キートンの栃麺棒
おすすめ度: ★★★☆☆
当日の午後7時までに結婚すれば、祖父からの莫大な遺産が手に入ることが判明し、大慌てで結婚相手を探す男の物語。
映画後半の、数にものを言わせたスラップスティックは一度は見ておくべき価値のあるもの。とはいえ、ストーリーにやや残念な部分もあり、全体的には及第点といったところです。
キートンの西部成金(1925)
別題: キートンのゴー・ウェスト!
おすすめ度: ★★★☆☆
一文無しで天涯孤独な男が西部の牧場で働くことになり、一頭の乳牛と心を通わせていく物語。
綺麗にまとめたストーリーや、クライマックスのスケール感は素晴らしいものの、キートンらしいアクロバティックな笑いはなりを潜め、少し物足りない作品です。
キートンのラスト・ラウンド(1926)
別題: 拳闘屋キートン
おすすめ度: ★★★☆☆
ほれた女性と結婚するため、同姓同名のボクサーになりすますことになってしまった男の物語。1922年のミュージカル劇を原作として翻案したもので、ストーリーはなかなか良くできています。
運動神経抜群のキートンが運動音痴を演じるその芸は光っているものの、キートンらしい人間離れした動きによる笑いは控えめ。キートンファンとしては少し物足りない作品です。
キートンの大列車追跡(1927)
別題: キートン将軍
キートンの大列車強盗
おすすめ度: ★★★★★
南北戦争下のアメリカ南部を舞台に、北軍の兵士に奪われてしまった恋人と機関車。それらを取り戻すために奮闘する機関士を描いた大活劇。キートンの最高傑作とされることの多い作品です。
機関車をたっぷり使った攻防で、危険すぎるアクションを生身でこなすキートンの姿には見入ってしまいます。スリルと笑いが見事に同居しており、コメディ映画というよりも笑いが散りばめられたアクション映画という方がしっくりきます。
キートンの大学生(1927)
別題: キートンのカレッジ・ライフ
おすすめ度: ★★★☆☆
学業では成績優秀ながら運動は苦手な大学生の男が、恋する女性の気を引くために運動にチャレンジする物語。運動神経抜群のキートンが運動音痴を演じるからこそ、その表現も洗練されています。
全体としてはやや単調ではありますが、クライマックスの約2分間の盛り上げ方は文句なしに素晴らしいです。
キートンの蒸気船(1928)
別題: キートンの船長
おすすめ度: ★★★★★
都会育ちの軟弱な小男が、ミシシッピ川沿岸の街を訪れ、父の蒸気船の運航を手伝う物語。
最高の見どころは、やはりクライマックス。ダイナミックな特撮と、キートンの体を張った超人的なアクションが楽しめます。サイレント期にアクションコメディというジャンルを開拓したキートンの魅力が詰まった作品です。
キートンのカメラマン(1928)
おすすめ度: ★★★★☆
静止画のカメラマンの男が、ニュース映画会社で働く女性に恋をし、そこで雇ってもらうために、動画のカメラマンに転身して奮闘する物語。キートンが自身の撮影所を手放し、大手映画会社MGMと契約しての一作目です。
抑揚の効いたストーリーに、笑いもたっぷり織り交ぜられていて楽しい作品です。MGMとの契約を契機に衰退していくキートンですが、少なくとも本作では、キートン映画の魅力は失われておらず、むしろキートンとMGMが交わったシナジーが感じられる作品になっています。
キートンの結婚狂(1929)
〜準備中〜
最後に
今回はバスター・キートンの魅力について解説すると共に、彼が監督・主演した長編作品のレビューをまとめさせていただきました。
体を張ったアクションとセンスの良いユーモアで魅せるキートン作品。中には今ひとつな作品もありますが、そんな作品でも必ず見どころがあるのもすごいところ。
「チャップリンは好きだけど、キートンはよく知らない」、「サイレント映画なんて見たことない」、そんな方がキートンの魅力に触れるきっかけになれば幸いです。
今回は長編映画のレビューをまとめましたが、実はキートン作品は短編映画の方がおすすめだったりもします。キートンがより若い頃ということもあってアクションもキレキレですし、短編だけにギャグとアクションの密度も濃いですからね。こちらもいずれ記事にできればと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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