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映画『リトル・ダンサー』解説&感想 丁寧な心理描写とエモーショナルなダンス

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どうも、たきじです。

 

今回は2000年公開のイギリス映画『リトル・ダンサー』の解説&感想です。2005年にはエルトン・ジョンの作曲によりミュージカル化され、イギリスのローレンス・オリヴィエ賞、アメリカのトニー賞などで主要部門を独占するなど、好評を得ています。

 

 

作品情報

タイトル:リトル・ダンサー

原題  :Billy Elliot

製作年 :2000年

製作国 :イギリス

監督  :スティーブン・ダルドリー

出演  :ジェイミー・ベル

     ジュリー・ウォルターズ

     ゲイリー・ルイス

     ジェイミー・ドラヴェン

 上映時間:111分

 

解説&感想(ネタバレあり)

ビリーの心の動きを描く

1984年、イングランドの炭鉱の町が本作の舞台。11歳の少年ビリー・エリオット(ジェイミー・ベル)は、たまたま目にしたバレエ教室の様子に興味を持ち、やがてその中に加わります。その才能を見抜いたバレエ教室の先生サンドラ(ジュリー・ウォルターズ)は、熱心にビリーを指導し、ビリーもまたそれに応えて上達していきます。


本作は、そうしてバレエに打ち込むビリーを描くわけですが、いわゆる"スポ根もの"とは趣が異なります。本作は、ビリーの努力による技術的な上達よりも、周囲の人々との関わりを通じたビリーの心の動きにフォーカスして描いているのです。


ビリーの置かれた環境はとても過酷なものです。炭鉱労働者の父ジャッキー(ゲイリー・ルイス)と兄トニー(ジェイミー・ドラヴェン)はストライキの真っ只中で、日々の暮らしに余裕がありません。ジャッキーもトニーも常に殺気立っているように見えます。祖母は軽度な認知症。そして母とは死別しています。家族からの愛情をまともに受けることもできず、ただ母を恋しく思いながら過ごすのです。


ビリーが母を恋しく思う様子は、極めて丁寧に描かれています。母の遺したピアノの鍵盤を叩く様子、繰り返し母の墓を訪れる様子、母が遺した18歳のビリーへの手紙に対する思い、ビリーの前に現れる母の幻影、そうした描写の一つひとつに、まだまだ幼いビリーの心情を思わされ涙が出そうになります。


ビリーは自分がなぜバレエに興味を持ったかも分からずに、ひたすら踊ることに情熱をぶつけていきます。ただ、ビリーをバレエ教室へと導いたのはピアノの音色。ビリーはピアノの音色に母を感じたと解釈できます。

 


エモーショナルなビリーのダンス

やがて、ビリーは彼の置かれた環境の閉塞感を打ち破るかのように、ダンスで自分を表現するようになっていきます。その様子にはぐいぐい引き込まれてしまいます。


クリスマスの夜、ビリーは友達のマイケル(ステュアート・ウェルズ)とボクシングジムでバレエを踊っているのを父に見つかります。ビリーは何も弁明することなく、父の目の前で全力で踊ります。このシーンは、間違いなく映画のハイライトの一つ。踊りの技術うんぬんよりも、そのエモーショナルな表現に魅せられます。


これをきっかけに父はビリーがバレエを踊ることを認め、ビリーは家族に支えられて踊るようになるのです。


父親目線でも見てしまう

本作の公開当時、私はまだ高校生で、初めて本作を見たのは学生の頃だったと思います。家庭を持った今、改めて本作を見ると、家族、特に父ジャッキーに感情移入してしまいますね。


ビリーが過酷な環境に置かれていることは間違いないですが、ジャッキーもまた貧困と闘いながら家族を養わねばならない酷な立場にあります。


そんな中、なけなしの金でボクシングを習わせているのに、バレエをこっそり習っていたビリー。たしなめると悪態をついて出て行ってしまいます。


このシーンなんて、初めて見た時は「ビリー、よく言った!」くらいに思っていたかもしれませんが、今見ると「ビリー、なんてこと言うんだ!」なんて思ってしまいます(笑)


ジャッキーが亡き妻のピアノを壊して薪として使うシーンにしても、ジャッキーは「母さんはもう死んだ!」なんてぶっきらぼうに言い放ちますが、その裏にある彼の苦悩が痛いほど伝わってきました。


ジャッキーがスト破りをして炭鉱に向かうシーンはもう涙なしには見られません。ビリーの兄トニーに対して、「俺たちは終わりだ。でもビリーにはチャンスを与えてやりたい!」と泣き崩れるシーンです。というか、上に挙げた父の苦悩が垣間見られるシーンの時点で、やがて訪れるこのシーンを思い出して何度も泣きそうになってしまいました(笑)

 


ジェンダーもテーマの一つ

さて、本作は、ジェンダーもテーマの一つと言えるでしょう。男性的な炭鉱労働やボクシングと、女性的なバレエが対比して描かれ、当初はジャッキーもビリーがバレエをやることに拒否反応を示していました。ビリー自身も、トランスジェンダーの友人マイケルから頬にキスされた時に、「バレエは好きだけど男に興味はない」と言うように、バレエが女性的なものであると認識しています。


映画終盤、ビリーはマイケルとの別れに際し、彼の頬にキスします。これは、もちろんビリーが男に興味を持ち始めたわけではありません。マイケルがビリーにしたのと同じように、ビリーは最後にキスを返した訳ですが、私にはある種の決意表明のようにも見えました。トランスジェンダーであるマイケルの個性を認めた上で、自分自身も自分の道を歩んでいくという決意です。


そう見えた理由の一つが、大人になったビリーを描いたラストシーン。ここでビリーを演じているのはアダム・クーパーというイギリスの著名なバレエダンサーです。本作のラストでビリーが演じているのはマシュー・ボーン(映画監督のマシュー・ヴォーンとは別人です。念のため…)演出の『白鳥の湖』。現実にアダム・クーパーが主演した作品です。


劇中でも語られるオリジナルの『白鳥の湖』は悪魔によって白鳥に姿を変えられた王女が、王子と恋に落ちる物語。女性ダンサーが白鳥達を演じます。一方、マシュー・ボーン版では、男性ダンサーが白鳥を演じるという大胆な翻案が施され、同性愛的なニュアンスも含んだ作品になっています。


男性の力強さと美しさで新しい『白鳥の湖』を表現するビリーと、それを男性のパートナーと見つめるマイケル。このラストシーンは、ジャッキーとビリーの父子の物語だけでなく、上述の別れ際のキスのシーンを受けた、ビリーとマイケルの物語の一つの結末でもあると感じました。

 


映画的な表現のうまさ

さて、本作は映画的な表現という点でも見どころ十分な作品と言えます。


例えば、冒頭の数シーンを見てみましょう。


朝食の準備をするビリー。祖母がいなくなっているのを見て慌てて外を探し連れ帰る。背後には物々しい機動隊が集まる。

 

家では兄と相部屋。俺のレコードを聞いたろと咎められ頭を叩かれる。

 

翌朝、ストライキのポスターを持って忙しなく出かけていく兄。ピアノの鍵盤を叩くビリーに対し「やめろ」という父。「母さんなら怒らない」と返すビリー。無言で激しくピアノの蓋を閉めて出て行く父。ビリーが悲しい表情で顔を上げると、母の写真とみんな笑顔の家族写真がある。


台詞の少ない、この冒頭の数シーンで、ビリーの自身はもちろん、厳しい父と、ぶっきらぼうで粗暴な兄と、軽度の認知症の祖母という家族の人となりをさらりと描写して見せます。同時に、彼らが貧しい労働者階級にあり、炭鉱の仕事はストライキの真っ只中であることも描いています。さらには、母が死別したこと、それによるビリーの心の影、ややギクシャクした父子関係も予見させます。


物語の背景やキャラクターを、説明的な台詞などは用いずにさらりと描写しているのは見事なものです。


また、本作においては様々な編集テクニックを駆使して、テンポ良くストーリーが進められます。


例えば、ビリーがターンの練習をするシーンは、普通は時系列をテンポ良く飛ばしたモンタージュで描きそうなところを、ここでは異なる時系列の複数のカットを並行して描いて見せています。


また、別のシーンでは、ビリーがバレエの練習をするカットと、ジャッキーやトニーが抗議活動をするカットをクロスカッティングで並行して描きます。一見馴染まないような2つのシーンを、このように対比的に並行して描くと言うのは、なかなかエッジの効いた表現と言えます。


さらに、ビリーにバレエを教えるサンドラをトニーが咎めるシーンでは、トニーとサンドラの口論を導入として、ミュージカル風のダンスシーンが始まります。この導入の編集もかっこいいですし、シーン最後では、シーンの途切れなくシームレスに季節が冬に変わるという演出も決まっています。


本作では、こうした様々な表現の工夫によって、映画序盤から中盤にかけてを、無駄のないストーリー運びでテンポ良く見せています。だからこそ、対象的にテンポを落としてじっくりと描かれる終盤(ビリーのオーディションあたりから)で、ぐっと物語に引き込まれるのだと思います。

 

最後に

今回は映画『リトル・ダンサー』の解説&感想でした。丁寧な心理描写とエモーショナルなダンス、映画的な表現のうまさと、とても魅力の多い映画です。

 

ちなみに私は、本作のミュージカル版をブロードウェイで見たことがあります。ブロードウェイの初演から間もない頃ということもあり、プレミアチケットになっていて日本円にして3万円ほどしましたが、意を決して購入し鑑賞。それなのに、時差ボケ+英語の理解力不足で、途中ウトウトしてしまうという苦い思い出になっています(笑)


それでも、映画では上述のミュージカル風のダンスシーンに相当する"Angry Dance"や、父の前で初めて踊るシーンに相当する"Swan Lake"には大変感動したのを覚えています。本作が好きな方はミュージカル版もおすすめです。

 

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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