どうも、たきじです。
今回は映画『知りすぎていた男』の解説&感想です。
本作は、モロッコ、ロンドンを舞台に、要人暗殺の陰謀に巻き込まれていくアメリカ人一家を描くサスペンス映画。アルフレッド・ヒッチコック監督が得意とする巻き込まれ型サスペンスです。
ヒッチコック監督のイギリス時代の作品『暗殺者の家』(1934年)を、監督自身がスケールアップしてリメイクした作品です。
作品情報
タイトル:知りすぎていた男
原題 :The Man Who Knew Too Much
製作年 :1956年
製作国 :アメリカ
監督 :アルフレッド・ヒッチコック
出演 :ジェームズ・ステュアート
ドリス・デイ
バーナード・マイルズ
ブレンダ・デ・バンジー
ダニエル・ジェラン
上映時間:120分
解説&感想(ネタバレあり)
サスペンス好きを惹きつける前半
マッケンナ家の3人、すなわち父ベン(ジェームズ・ステュアート)、母ジョー(ドリス・デイ)、息子ハンクが陰謀に巻き込まれていく前半は、様々な謎が渦巻く中で物語が進み、常に怪しい空気が漂います。
バスで知り合ったルイ(ダニエル・ジェラン)が、バスで揉めたアラブ人と親しげに話しているのを目撃したり、見知らぬ夫婦にジロジロと見られていたり、怪しい男がホテルの部屋を間違えて訪ねて来たり、夫婦との食事をドタキャンしたルイが同じ店に女性と現れたり…
極め付けは、なぜかアラブ人に変装したルイが、背中をナイフで刺され、ベンの前で息絶えるという急展開。彼が直前に言い遺す手がかり、"ロンドン"、"アンブローズ・チャペル"…。サスペンス好きを惹きつける、そそる要素が満載です。
ホテルの部屋を訪れる男は、後に暗殺者であることが分かるのですが、このシーンでドアの前に立つ彼の顔が逆光で真っ暗という演出もいいですね。しかもやがて浮かび上がってくる顔が、いかにも怪しい顔なものだから、もう参ってしまいます(笑)
音楽による暗殺へのカウントダウン
本作を語る上で欠かせないのは、やはりロイヤル・アルバート・ホールを舞台にした暗殺(未遂)のシークエンスでしょう。
コンサートでの演奏でシンバルが叩かれる瞬間に、某国の首相が狙撃されることは、映画を観る我々に知らされています。つまり、コンサートの演奏が暗殺へのカウントダウンになっているのです。
コンサートが開演し、演奏が進み、歌が始まり、シンバル奏者が立ち上がり、シンバルを手に取り、構える。着々とカウント・ゼロが近づいていく中で、狙撃の準備をする暗殺者、狙われる某国の首相、うろたえるジョー、会場に駆けつけるベンの様子がカットバックで挿入されます。文字通り、手に汗握る緊張感です。
演奏が始まってからシンバルが鳴る直前までの約12分間は、台詞を一切排除して描かれます。それがまた格好良く、痺れます。
沈黙を破るのはジョーの悲鳴。直後にシンバルの音とともに弾丸が放たれますが、ジョーが悲鳴を上げたことで、首相は命を落とさずに済みます。これによって、ベンとジョーがハンクの捕われている大使館に乗り込む流れになるのが、またうまいところです。
ちなみに、ここで演奏されるカンタータは、オリジナル版『暗殺者の家』で音楽を担当したアーサー・ベンジャミンが作曲したもの。本作では、ヒッチコック作品でお馴染みのバーナード・ハーマンが音楽を担当していますが、この曲はオリジナル版を流用したというわけです。その代わりと言ってはなんですが、このコンサートのシーンで指揮者としてバーナード・ハーマンが登場しています。
響き渡る『ケ・セラ・セラ』
本作を語る上で欠かせないのがもう一つ。劇中、ドリス・デイによって歌われる『ケ・セラ・セラ』です。アカデミー賞で歌曲賞を受賞しています。
しばしばカバーされ、CM等でも耳にすることの多い有名曲ですが、本作の主題歌であることは意外と知られていないかもしれません。
序盤でジョーとハンクが親子仲良く歌うシーンで印象付け、クライマックスではジョーが我が子の為に歌います。その歌声は、大使館に響き渡り、ハンクが捕われている部屋まで届きます。命の危険が迫るハンクを不憫に思ったドレイトン夫人が改心し、歌声に応えることをハンクに促します。そして母親の歌声に合わせてハンクは指笛で応えます。この流れがささやかな感動を生みます。曲自体がとてもいいのでなおさらです。
この指笛を聞いたベンがハンクを助けに来るわけですが、すでに指笛は鳴り止んでるにも関わらず、ベンはドアを一撃で破壊して部屋に入ってきます。これにはちょっと笑ってしまいました。ハンクがいるのはこの部屋に違いないというその自信はどこから来たのよ(笑)
コミカルなシーンによるメリハリ
本作はシリアスなサスペンス描写の中にコミカルなシーンを挟み、緊張と緩和を絶妙に織り交ぜることで、メリハリを効かせています。(一応言っておくと、上記のドア破壊のシーンは、"コミカル"を狙ったシーンではありません。)
例えば、ベンとジョーがモロッコのレストランを訪れるシーン。サスペンスフルなムードの中、異国のレストランで席に座るのにも食事するのにも四苦八苦するベンの滑稽な様子が挟まれます。
あるいは、ベンがアンブローズ・チャペル氏を訪ねるシーン。いかにも怪しい人相の男が剥製工房に入っていくのを見て、恐る恐る後を追うベンですが、これが事件に何の関係もない男。工房の中での乱闘騒ぎは、これまた滑稽です。
あるいは、ベンとジョーが教会のアンブローズ・チャペルを訪れるシーン。一味が隠れ蓑にしている教会に乗り込み、ドレイトン夫人と鉢合わせる緊張感あふれるシーンです。ここで、ベンとジョーが他の礼拝者と一緒に讃美歌を歌いながら、歌で会話する様子には思わず吹き出してしまいました。
このように、緊張を所々で緩めつつ、コンサートのシークエンスで究極的な緊張が訪れるわけです。このメリハリですよ!
ラストシーンにしてもそうです。ハンクを救出し、ドレイトン氏も倒れ、ハッピーエンドなわけですが、エピローグ的なシーンもなく、唐突にホテルに場面が飛びます。
ロンドンを訪れたジョーに会いに、ジョー達の事情も考えずにホテルに押しかけてきた彼らが、今だにベンとジョーを待っているというオチ。ずっと待ってた彼らに対し、ベンは「遅くなってごめん!ハンクを連れてきた!」これで"THE END"。思わず苦笑いです(笑)
この時代の映画は、エンドロールも無く急にTHE ENDなので、そもそも余韻に浸る時間がないのですが、本作はレベルが違います(笑)。これはヒッチコックさん、ちょっと雑では?
でもこのシーン、登場シーンではうざったい感じのキャラに見えた彼らが、律儀に2人の帰りを待っていて、こうして笑いで消化されるというのが、なんか嫌いになれないんですよね。
最後に
今回は映画『知りすぎていた男』の解説&感想でした。コンサートシーンにしても、『ケ・セラ・セラ』にしても、讃美歌にしても、音楽をストーリー上で非常にうまく使った作品です。まさに音楽が彩るサスペンスと言えるのではないでしょうか。
なお、ヒッチコック作品では、必ずと言っていいほどヒッチコック監督がカメオ出演します。本作では、モロッコの市場のシーンで曲芸を見物しているヒッチコックを見ることができます。
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