どうも、たきじです。
今回は1938年公開のイギリス映画『バルカン超特急』の解説&感想です。
作品情報
タイトル:バルカン超特急
原題 :The Lady Vanishes
製作年 :1938年
製作国 :イギリス、アメリカ
監督 :アルフレッド・ヒッチコック
出演 :マーガレット・ロックウッド
マイケル・レッドグレイヴ
ポール・ルーカス
メイ・ウィッティ
セシル・パーカー
リンデン・トラヴァース
上映時間:97分
解説&感想(ネタバレあり)
群像劇のような幕開け
アルフレッド・ヒッチコック監督といえば、『サイコ』や『裏窓』など、ハリウッド時代の名作を思い浮かべる人がほとんどでしょう。しかし、ハリウッドに渡る前のイギリス時代にも、後の代表作に通じる名作がいくつもあります。その集大成とも言えるのが1938年の『バルカン超特急』です。
物語は、雪崩で列車が立ち往生した欧州山中の小さなホテルから始まります。山奥のホテルで過ごす人々の人間模様を描いていく様子は、いわゆるグランド・ホテル形式の群像劇のよう。
頭の中はクリケットのことしかないイギリス人コンビ、ダブル不倫のカップル、家庭教師の女性、3人組の若い娘、音楽家の男——。登場人物それぞれが個性的で、短い時間の中でも鮮やかに印象づけられます。
若い娘の1人アイリスと音楽家の男ギルバートが本作の主人公ですが、ひとつ気になったのは、ギルバートの第一印象を悪く描きすぎじゃないかということ。ホテルの部屋で演奏とダンスで騒音を立て、アイリスの苦情によって部屋を追い出されると、アイリスの部屋におしかけてそこで寝ようとします。
最初は歪み合った2人が物語を通して最終的に惹かれ合う、といった(今となっては)ベタなパターンをやるためでしょうが、主人公をここまでクズ野郎に描くのはどうなのか(笑)。
列車内で起こるミステリー
列車内へと舞台を移ると、物語は列車という閉鎖空間を舞台としたミステリーへと突き進んでいきます。アイリスが眠りから覚めると、一緒にいたはずの老婦人ミス・フロイが忽然と姿を消しているのです。しかし、車内の誰もが「そんな女性は最初からいなかった」と証言。やがてミス・フロイが戻ったかと思えば、それはどう見ても別人。事態はますます混迷を極めていきます。
ここで印象的なのは、ガラスに浮かび上がる「FROY」の文字や、窓に張り付くハーブティーの紙片。誰もがミス・フロイの存在を否定する中、ミス・フロイと過ごした記憶は夢や幻ではないのだと、アイリスに確信させます。言葉なきオブジェクトがミス・フロイの存在を叫ぶ、見事な演出でした。
サスペンス構造の転換
映画前半において、観客は主人公と同じ目線で、ミス・フロイの存在が消えるミステリーを体験します。後半に入ると、主人公に与えられた情報と、観客に与えられる情報に差が生まれていきます。顔を包帯で覆われた患者がミス・フロイであることは、観客には確定した事実として伝えられますし、主人公が飲もうとしているブランデーに薬が仕込まれていることはもちろん観客だけに知らされた情報です。
「ミステリーの擬似体験」から、「知っているから怖い」へ。ヒッチコック監督は、物語の進行に沿って、サスペンス構造を転換させています。さらに、クライマックスでは列車という閉鎖空間での籠城戦や走る列車での攻防といったアクションシーンへと移行し、物語を盛り上げます。
もちろん、今観ると手に汗握るような迫力のアクションというわけではないのですが、まあサスペンス映画のおまけのアクションということで。
単なるマクガフィンではない象徴的モチーフ
ヒッチコック監督のサスペンス映画にしばしば登場する「マクガフィン」。「物語の進行において重要なキーアイテムだが、それ自体が何であるかはどうでもいい」。そんなものを指します。典型例は、機密書類や設計図、宝石など。それが実際に何なのかは重要ではなく、それを主人公と悪役が奪い合うなどして物語を動かすためのアイテムです。本作においては、暗号のメロディがマクガフィンであると見ることができるでしょう。
「メロディが暗号である」ということをうまく使ったエピローグはヒッチコック監督らしさが溢れています。メロディを外務省に届けるために、忘れないようにずっと口ずさむギルバート。しかし、外務省にたどり着いてアイリスとキスするとメロディが結婚行進曲に上書きれてしまいます。慌てる2人でしたが、部屋に入るとミス・フロイが暗号のメロディを奏でる姿がそこにあります。
なんとユーモアあふれる素敵なラストシーンでしょうか。このエピローグは、メロディが暗号であるという設定あってのもの。そういう意味では、暗号のメロディは純粋なマクガフィンではなく物語の象徴的なモチーフとして機能していると言えるかもしれませんね。
最後に
今回は映画『バルカン超特急』の解説&感想でした。一時も退屈させずに観客を引っ張るヒッチコックの演出は、彼らしいユーモアあふれるラストシーンまでテンションを落とすことなく続きます。まさにヒッチコック監督のイギリス時代の集大成とも言える傑作サスペンスです。
個人的な満足度:8/10
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