どうも、たきじです。
今回は2024年公開の日本映画『侍タイムスリッパー』の解説&感想です。
作品情報
タイトル:侍タイムスリッパー
製作年 :2024年
製作国 :日本
監督 :安田淳一
出演 :山口馬木也
冨家ノリマサ
沙倉ゆうの
峰蘭太郎
紅萬子
福田善晴
上映時間:131分
解説&感想(ネタバレあり)
観客を引き込む見事な設定
侍が現代にタイムスリップする——。この設定自体は新しいものではありません。ドラマや映画にもなった漫画『サムライせんせい』をはじめ、類似の発想を取り入れた作品は少なくありません。そんな中で『侍タイムスリッパー』が面白いのは、タイムスリップした侍・高坂が時代劇の撮影現場に入り込んでいくという設定です。
時代劇が徐々に廃れてきた現代において、なんとかその火を絶やさぬように奮闘する制作者たちの前に、突如現れた高坂。しかし、彼が本物の侍であるということは周囲に認識されません。最後まで「記憶喪失になった人」という形で物語が展開するのは面白いところでした。
また、本作においてタイムスリップという要素は、あくまでも物語の導入装置に過ぎません。同じく現代にタイムスリップした侍・風見の登場による一波乱はあるにせよ、「元の時代に戻るために云々」みたいなタイムスリップ軸のストーリー展開はありません。本作は「侍としての生き様」や「時代劇を守る」というテーマを真っ向から描いた作品なのです。
究極のクライマックス
終盤、高坂が"故郷"会津藩の悲しい運命を知ったことで物語が大きく動いていきます。この展開自体も見事でしたが、何より素晴らしいのはこの後のクライマックスです。高坂は、撮影中の映画のクライマックスを、真剣を使って撮影しようと提案し、反対意見もありつつも、それが認められます。
表向きは、凄まじい緊張感の中で、リアルな殺陣をフィルムに収めるため(もちろん、高坂の中には、本物の侍の殺陣を残したいという思いも確かにありました)。しかし、その真意は、侍としてのけじめをつけるため。高坂は風見を元の時代で暗殺するはずだった。しかし、それは叶わず、結果として会津藩は悲劇的な末路を迎えた。風見を斬らねば、仲間たちに顔向けできないという思いです。
高坂の執念と、映画人の狂気が生み出す究極のシチュエーション。高坂と風見は、時代劇の撮影の場を借りて、本気の果たし合いを繰り広げるのです。
『椿三十郎』のクライマックスを思わせる長い静止を経て始まる果たし合い。静かな間を重視した殺陣には思わず息を呑みます。人が本気で斬り合うことなどない現代という舞台設定、本気の斬り合いなどとは思いもせずに見守るスタッフの存在、そして2人とも死んでほしくないと願わずいられないほどに2人とも善人であること。このシチュエーションが、通常の時代劇の殺陣にはない緊張感を生み出しています。これまでのどの時代劇よりも増して、その一手一手に見入ってしまいました。
私は本作を「時代劇オマージュを織り交ぜたコメディ」くらいに思っていましたが、想像以上にこうしたドラマ性が前面に出ていたことは嬉しい驚きでした。
主演2人の演技が光る
自主制作がヒットするという場合、独創的な脚本が魅力であることが多く、本作も例外ではありませんが、本作の場合、主演2人の演技も大きな魅力でした。高坂を演じた山口馬木也さんと、風見を演じた冨家ノリマサさん。知名度で言えば、大作映画に出演するような俳優には劣るものの、彼らが見せる殺陣や、表情による芝居は一流でした。
特に、山口さんは本当にいい表情をします。ケーキを食べながら現代の日本という国を噛み締めるシーンや、優子に時代劇ドラマを見た感動を語るシーンのように、彼の感情が溢れるシーンは、見ているこちらも胸が熱くなりました。
時代劇文化と京都撮影所への敬意
さて、時代劇に対する敬意が溢れた本作ですが、長年にわたって時代劇文化を支えてきた東映京都撮影所に対する深い敬意も感じられます。本作は京都撮影所を舞台としており、ナチュラルな関西弁、京都弁を話す俳優が多数参加しています。
また、かつて時代劇を離れて東京に去った風見のことを「東京に下りはった」と表現する台詞にも現れているように、京都で誇りを持って時代劇を撮る彼らからは、京都こそが映画撮影の中心地であるという自負が感じられます(その背景には、東京が首都になって150年余りなのに対し、京都は1000年以上にわたって日本の都であったという自負も見え隠れしますが)。
加えて、本作が福本清三氏に捧げられていることも見逃せません。彼は東映京都撮影所に長年所属し、「5万回斬られた男」として知られた伝説の斬られ役。ハリウッド映画『ラストサムライ』にも出演されていました。映画全体から感じられるのは、福本氏のように、時代劇の本場で、目立たないながらも時代劇を支えてきた人々への深い感謝と、彼らが培ってきた“時代劇の魂”を、今一度スクリーンに甦らせようとする作り手たちの執念です。
本作は京都撮影所という聖地で時代劇を撮り続ける人々への讃歌なのだと思います。
最後に
今回は映画『侍タイムスリッパー』の解説&感想でした。観客を引き込む見事な設定と、その設定を活かしきった究極のクライマックス、主演2人の演技。自主制作映画ながら大ヒットしたのも納得の、魅力に満ちています。時代劇文化や京都撮影所に対する深い敬意が感じられることも含め、心に残る作品でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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