どうも、たきじです。
今回は1960年公開の映画『サイコ』の解説&感想です。
作品情報
タイトル:サイコ
原題 :Psycho
製作年 :1960年
製作国 :アメリカ
監督 :アルフレッド・ヒッチコック
出演 :アンソニー・パーキンス
ヴェラ・マイルズ
ジョン・ギャヴィン
マーティン・バルサム
ジョン・マッキンタイア
ジャネット・リー
上映時間:109分
解説&感想(ネタバレあり)
衝撃的なストーリー構成
本作は、数々の傑作サスペンス映画を遺したアルフレッド・ヒッチコック監督の作品の中でも、特に高い評価を受ける名作です。
まず注目したいのは、斬新なストーリー構成です。物語の前半では、不動産会社で働く女性マリオンが、顧客の支払った4万ドルの現金を横領し、遠方にいる恋人サムのもとへ車を走らせる過程が描かれます。信号待ちの際に会社の社長と偶然鉢合わせしたり、不審に思った警官に追いかけられたりと、マリオンが横領した事実が露呈しないかとハラハラさせられる展開が続きます。この段階では、作品はクライムサスペンスの体裁をなしています。
しかし、そんな物語が中盤で一転します。前半で主人公であったマリオンが、モーテルで殺害されるのです。物語はここからサスペンス・ホラーの色を強めていきます。主人公は事件を追う私立探偵や、モーテルを経営するノーマン・ベイツに移ります。やがてこの探偵までも殺されてしまい、主人公はサムとライラ(マリオンの妹)へとさらにバトンタッチされるのです。
物語は予測不能な展開を見せ、ぞくぞくするような不気味な緊張感が高まり、観客を引き込んでいきます。
伝説的な殺人シーンと演出の妙
本作を語る上で外せないのが、マリオンがバスルームで殺害されるシーンです。映画史に残る伝説的シーンとして知られ、誰もが本作で真っ先に思い浮かべるシーンでしょう。
振り下ろされるナイフやマリオンの苦痛に満ちた表情、流れる血などの短いカットを重ねた計算高い編集は見事なもの。加えて、バーナード・ハーマンによる音楽——バイオリンによる不協和音の連打が、鋭く刺さるナイフの動きと連動するかのように緊張感を煽ります。これにより、ナイフが体に刺さる直接的描写は一切ないにも関わらず、観客に強烈なショックを与えます。
そして、シャワーの水とともに血が排水口に流れ込み、排水口とオーバーラップしてマリオンの目のクローズアップに切り替わるという編集。排水口の形と目の形を重ねたこの編集はマッチカット(より具体的にはグラフィックマッチ)と呼ばれる技法です。排水口に吸い込まれていく血が、マリオンの命が失われていくのを暗示し、見開いて静止したマリオンの目が、彼女の命が途絶えたことを象徴するかのようです。
ノーマン・ベイツというキャラクター
少し古い話になりますが2003年にAFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)が「アメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100」 (AFI's 100 Years... 100 Heroes and Villains) というランキングを発表しています。この悪役ランキングで、本作のノーマン・ベイツは、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』のダース・ベイダーを抑えて2位にランクインしています(1位は『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター)。それほどまでに、ノーマン・ベイツというキャラクターが残したインパクトは凄まじかったということでしょう。
ノーマンは寂れた旧道にある屋敷に母親と2人で暮らし、隣のモーテルを経営する若者。彼は母親に対する複雑な感情や抑圧を抱えています。マリオンとの会話の中で母親について語る様子からは、母親に対する愛憎が溢れています。
「自分が面倒を見るしかない」。ノーマンがそう語る母親は、実際には10年前に死んでいたというミステリー。屋敷にいるかに見えた母親の正体はノーマンであり、ノーマンは内面に母親の人格を作り出した二重人格者でした。
内面に存在する母親に縛られた抑圧。そして、マリオンに抱いた欲望に対する罪悪感や自己嫌悪。それが母親の人格から見れば怒りに変わり、殺人へと繋がります。この行為もまた、ノーマンが母親に依存していると見ることもできるかもしれません。
こうした複雑な背景とキャラクター描写は、ノーマンに、単なる「イカれたサイコパス」に終わらない深みを与えています。観客は、ノーマンに恐怖を感じると同時に、同情に似た感情も抱いてしまいます。
鳥の剥製が示唆するもの
ノーマンのモーテルの応接室には、ノーマンが作った鳥の剥製が多数飾られています。この剥製は、本作において暗示的に使われています。
ノーマンが母親の遺体を保存し、まるで生きているかのように人格まで継承しているのは、まさに在りし日の母親の姿を剥製として保存しているかのようです。一方で、ノーマンは死んだ母親に精神的に支配されてしまっています。ノーマンもまた、中身を抜かれて剥製にされたかのような存在と見ることができます。
アンソニー・パーキンスの演技
本作でノーマン・ベイツを演じたアンソニー・パーキンスの演技は見事というほかありません。下手をすると「サイコパス」を強調し過ぎた大袈裟な演技になってしまいそうなところですが、パーキンスは繊細な表現で、ノーマンの内に潜む二面性や不安定さを自然に演じています。
マリオンとの会話で、剥製の話になって急に饒舌になるところとか、「(母親を)どこかに預けたら?」というマリオンの発言を聞いて豹変するところとか、実に上手いですね。
極めつきは、ラストシーン。母親の人格に完全に支配されてしまったノーマンの表情。ノーマンの顔に、最後の一瞬だけ母親のミイラがオーバーラップする演出も相俟って、観客に不安と恐怖を感じさせます。
また、後世の映画にもノーマンのような、二重人格であったり、内面に恐ろしい側面を持っていたりといったキャラクターは散見されます。そうしたキャラクターの原型として、パーキンスによるノーマンの演技は後世に影響を与え続けていることでしょう。
最後に
今回は映画『サイコ』の解説&感想でした。巧妙なストーリー構成やキャラクター造形、編集や音楽も含めた恐怖演出、アンソニー・パーキンスの見事な演技、こうした要素がしっかりと噛み合い、映画史に残るサスペンス・ホラーの金字塔とも言える作品に仕上がっています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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