映画『パプリカ』感想　夢を描写するイマジネーションと表現力

他人と夢を共有できる装置を盗み、人の精神を崩壊させるテロリストと、それに挑むセラピストの戦いを描いた物語。夢の共有というテーマは、あのアニメの劇場版第2作（ネタバレになるので伏せます）や、『インセプション』でも扱われていました。夢を題材として扱う作品は、どうしてもイマジネーションや表現力が問われますね。本作はそのどちらも抜群です。

人形や家具や家電など、無生物の大行進は絶大なインパクトですし、反復される粉川の悪夢は、映画のワンシーンの再現や殺人現場の廊下が歪んでいく表現に目を見張ります。

粉川がかつて映画を撮っていたとあって、映画ネタは豊富で楽しいですね。上述の悪夢では『地上最大のショウ』や『ローマの休日』が再現されています（スパイ映画は『007／ロシアより愛をこめて』かな？）。イマジナリーラインとかパンフォーカスの講釈が出てくるのも面白いですね（パンフォーカスの説明のくだりでは画面がゆっくりパンフォーカスになっていくのは芸が細かいですね）。突然、粉川が黒澤明監督のような姿になっているのは笑ってしまいました。

ストーリーが進むにつれ、現実かと思っていたシーンが夢で、いったいどこまでが夢なのか曖昧になっていく、というよりどこまでいっても夢が終わらない感じがいいですね。

ただ、改めて見返してみると脚本はもう一息という印象。テロリストが起こした事件の捜査と、粉川の抱えるトラウマを軸とした中盤までのストーリー展開は良かったのですが、クライマックスは今ひとつ乗り切れないものでした。

本作が物足りなく感じてしまうのは、同種の映画で『インセプション』という傑作が生まれてしまったというのもあるかもしれませんが。