どうも、たきじです。
今回は1957年公開の日本映画『蜘蛛巣城』の解説&感想です。
作品情報
タイトル:蜘蛛巣城
製作年 :1957年
製作国 :日本
監督 :黒澤明
出演 :三船敏郎
山田五十鈴
千秋実
志村喬
浪花千栄子
上映時間:110分
解説&感想(ネタバレあり)
黒澤明が描く『マクベス』
時は戦国時代。戦で武功を挙げた鷲津武時(三船敏郎)は、主君のいる蜘蛛巣城へと向かう途中、森の中で怪しい老婆(浪花千栄子)と出会います。老婆は、武時がいずれ蜘蛛巣城の城主になることを予言し、忽然と姿を消します。主君への忠義に厚い武時はこれを一笑に付すものの、やがて妻(山田五十鈴)にそそのかされ、主君を暗殺します。予言通りに蜘蛛巣城の城主となった武時ですが、やがて破滅へと向かっていくことになります。
本作はそんな物語。日本の戦国時代を舞台としていますが、ストーリーのベースはウィリアム・シェイクスピアの『マクベス』。『ハムレット』、『オセロ』、『リア王』と合わせて、シェイクスピアの四大悲劇と括られる作品です(黒澤明監督は『リア王』 も、1985年に『乱』として時代劇に翻案しています)。
お馴染みの黒澤演出
『羅生門』、『生きる』、『七人の侍』と、映画史に残る名作を量産中の50年代の黒澤作品とあって、他の作品でもお馴染みの黒澤演出が溢れています。
大勢のエキストラを投入した群衆のダイナミズム。激しい風にはためく旗。地面に撒かれた灰により巻き上がる砂煙。激しく降り注ぐ雨。こうした被写体側の演出に加え、望遠撮影によるスピード感の演出によってさらに迫力が加わります(枯れ木越しの騎馬のショットは特に印象的)。
そんな中でも本作で特に目を引くのは霧の演出。随所で画面が霧に包まれ、時に怪しく、時に幻想的な雰囲気を醸し出します。武時と義明が、蜘蛛巣城に向かう道中で霧の中を彷徨うシーンは、さすがに長すぎな気がしましたが(笑)。
映画の始まりは霧に包まれた蜘蛛巣城址。やがて霧が少し晴れると、蜘蛛巣城が在りし日の姿に。「映画の舞台となる空間が荒廃した姿から始まり、在りし日の姿に遡って物語が始まる」という導入の演出は、『タイタニック』や『オペラ座の怪人』でも用いられていましたが、個人的に好きな演出です。
物語は武時の破滅で幕を閉じます。「森が動きだして蜘蛛巣城へ押し寄せぬ限り、戦に敗れることはない」と言われて安心していた武時でしたが、森が動くのを目にして恐れ慄きます(実際には、木に隠れて進軍してくる敵兵)。『マクベス』のクライマックスとしても有名なシーンですね(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』のクライマックスもこれを意識したものでしょう)。
やがて家来たちの謀反に合い、武時に向けられる矢の雨。これが実際に放たれた矢というのは有名な伝説。凄まじい演出です。
そして、映画の最後もまた霧。霧の中で倒れる武時。霧に消える蜘蛛巣城。見事です。
能の様式美
本作は能の様式美を演出に取り入れていることも有名です。私は能については大した知識がありませんが、それでも能を意識した演出とその効果は十分に感じられます。例えば、武時の妻を演じた山田五十鈴などは、能の動きや表情を意識しているのがよく分かります。
特に強い印象を残すのは武時が主君を暗殺するシーンでしょう。武時が槍を持って部屋を出た後、能の囃子が鳴り、部屋に残された妻は舞うが如く、血の壁(前の主の自害の跡)の前でそわそわと動き回ります。そして、血に濡れた槍を手にした武時が呆然とした表情で戻ってきます。
武時による主君暗殺の現場を直接描くのではなく、部屋に残された妻の"舞"によって描くというのは痺れますね。死を象徴する血の壁がまた舞台装置として効いています。この血の跡が妙にリアルで不気味なんですよね。
俳優陣の好演
武時を演じた三船敏郎は、やはり抜群のスター性がありますね。画面に初めて映る瞬間から、なんと素晴らしい面構えかと釘付けにされてしまいます。もちろん、能面を意識したメイクもそれを助けていますけどね。
本作で強烈な印象を残すのは上でも触れた山田五十鈴。夫の武時をそそのかし、物語を動かす悪女です。発狂して手の血を洗う仕草を繰り返すシーンは至極。本作のMVPと言っても過言ではないでしょう。
森に現れる不気味な老婆を演じた浪花千栄子も印象に残りますね。この女優さんは存じ上げませんでしたが、2020年のNHKの連続テレビ小説『おちょやん』(主演: 杉咲花)のモデルとなった方だそうで。本作公開時50歳ですから、随分と老けメイクをして臨んだようですね。
最後に
今回は映画『蜘蛛巣城』の解説&感想でした。シェイクスピアの『マクベス』を下敷きに、お馴染みの黒澤演出と能の様式美によって、唯一無二の作品に仕上がった名作です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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