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映画『斬る』解説&感想 岡本喜八版の用心棒

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どうも、たきじです。

 

今回は1968年公開の日本映画『斬る』の解説&感想です。

 

 

作品情報

タイトル:斬る

製作年 :1968年

製作国 :日本

監督  :岡本喜八

出演  :仲代達矢
     高橋悦史
     星由里子
     岸田森
     久保明
     中村敦夫
     中丸忠雄
     神山繁
     東野英治郎
     田村奈巳
     天本英世
     土屋嘉男

上映時間:114分

 

解説&感想(ネタバレあり)

時代劇の娯楽映画というと、私は真っ先に黒澤明監督の『用心棒』や『椿三十郎』を思い浮かべます。岡本喜八監督による本作は、明らかに両作を意識した内容になっています。


敵対する2つの集団の両方に入り込む源太(仲代達矢)の立ち回りだったり、源太が敵に捕まってボコられるという展開だったりは、『用心棒』を思わせます。源太が未熟な若侍達を導くのは『椿三十郎』ですね。若侍の人数が7人というのも、黒澤明監督の代表作『七人の侍』を意識してのことでしょうか。


映画冒頭の荒れ果てた町の雰囲気や猛烈な風も『用心棒』っぽいですね。が、同作とは違って、このオープニングが実にコミカル。腹を減らした男が、町を彷徨う鳥を取って食おうとするも、邪魔が入って失敗するというくだりの反復。源太と半次のユーモアたっぷりの掛け合い。『用心棒』のような始まりの中で、同作にはないコミカルさ。本作の方向性を宣言しているかのようにも感じられます。


そういう意味では、本作は『用心棒』や『椿三十郎』のパロディと捉えることもできそうですが、単なるパロディに終わらないのが本作のすごいところです。

 

何より際立っているのは、キャラクターの描き方。本作に登場するキャラクターのなんと魅力的なことでしょう。

 

仲代達矢演じる源太は、今はヤクザ者ながら、秘めた過去を持つ元侍。剣の腕が立ち、洞察力にも優れる。それでいて、どこか飄々としていて、すっとぼけた感じが最高にいいキャラしています。


高橋悦史演じる半次は、侍になりたい元百姓。源太以上にコミカルなキャラクターです。忙しない立ち回りがいちいち面白いですね。作中、「斬る」というフレーズが反復される中、半次の剣は、斬るのではなく「突き」主体なのがまた半次のキャラクターをいい具合に味付けしています。


侍を辞めたヤクザ者と侍になりたい百姓。町を去ろうとする者と町にやってきた者。対照的な2人が交錯するのが面白いです。


この2人の他にも、若侍のリーダー・哲太郎(中村敦夫)や、若侍を討ち取るために遣わされる浪人達の組長・十郎太(岸田森)など、それぞれに抱える過去を持ち、主役にできそうなキャラクターです。特に十郎太は、国を追われ女郎となった許嫁を身請けするために、武家の身を捨てた過去を持ちます。ストイックな雰囲気を含め、侍のかっこいいところがよく出たキャラクターですね。


その他、うまく立ち回ってストーリーを動かす源太の弟分、抜群の味を出す東野英治郎演じる森内、憎たらしくも(悪役として)めちゃくちゃ有能な鮎沢(神山繁)、博打好きの住職など、物語の隅々まで魅力的なキャラクターが配され、それでいて決して散漫にはならずうまく物語がまとまっているのが見事です。


さらに言えば、上でも触れた町を彷徨う鳥や、鮎沢の飼い猫も、ストーリーには直接関係ないながら、いい味付けになっています。特に猫は、鮎沢の屋敷のシーンで度々顔を出し、ほっこりさせてくれます(笑)。

 

鮎沢「私はイヌ(間者の意味で)が嫌いでな」

源太「どうりでここには猫しか」


という会話にもうまく繋がっていますね。ここの一連の問答は見事でした。

 


さて、本作はアクションシーンもなかなかのものを見せてくれます。全編通して、本作はテンポの良いカッティングが決まっていますが、アクションシーンでそれは際立っていますね。


アクションシーンで特に印象的だったのは、序盤で若侍達が城代家老を斬るシーン。墓場の前というロケーション、集団での殺陣のスピード感、大きく動き出すストーリー。つかみはバッチリでした。


このシーンでは、侍の1人の腕が切り落とされるショットがありますが、これも『用心棒』ですね(『スター・ウォーズ』でも引用されてお約束みたいになっています)。また、本作は、セルジオ・レオーネのマカロニ・ウェスタンの雰囲気も感じます(エンニオ・モリコーネを意識してそうな音楽のせいもあるか…)。


ジョン・フォードの西部劇に影響を受けた黒澤明が『用心棒』を撮り、セルジオ・レオーネが『用心棒』を西部劇に翻案した『荒野の用心棒』を始めとしたマカロニ・ウェスタンを撮り、それに影響を受けて岡本喜八が本作を撮る。親和性のある西部劇と時代劇の間を、振り子のように行きつ戻りつしながら演出が磨き上げられていくこの系譜が堪りませんね。

 

さて、本作はエピローグもきれいに収まっていて好きです。町を去ろうとする源太のところへ半次、弟分、女郎屋にいた女達が立て続けに現れます。半次は侍になれたものの、結局、堅苦しくて辞めてしまったのです。


「あばよ」とそっけなく1人で去っていく三十郎とは対照的に、本作の源太達は、ぞろぞろとみんなで去っていきます。微笑ましいラストシーンでした。例の鳥も、最後まで食べられることなく、エピローグにしっかり顔を出しているのも面白いです。

 

大満足だった本作ですが、難点を挙げるとすれば、十郎太があっけなく死んでしまうことでしょうか。源太との対決、もしくは共闘という熱い展開を勝手に待ってしまっていましたから。


源太の殺陣の見せ場が少ないのも残念なところ。終盤に敵にボコられてからはまともに動けなくなってしまって、そのまま見せ場なく終わってしまいますからね。この辺りは『用心棒』には及ばないところです。

 

最後に

今回は映画『斬る』の解説&感想でした。岡本喜八版の『用心棒』や『椿三十郎』とも言えるような内容の本作。単なるパロディに終わらない、魅力的なキャラクターや演出が光る作品です。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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