どうも、たきじです。
今回は映画『ハミルトン』の解説&感想です。2015年に初演され、トニー賞で11部門受賞した人気ミュージカルのブロードウェイ公演を撮影した映画で、Disney+で公開されました。
作品情報
タイトル:ハミルトン
原題 :Hamilton
製作年 :2020年
製作国 :アメリカ
監督 :トーマス・カイル
出演 :リン=マニュエル・ミランダ
レスリー・オドム・Jr
フィリッパ・スー
レネイ・エリース・ゴールズベリイ
ダヴィード・ディグス
クリストファー・ジャクソン
ジョナサン・グロフ
アンソニー・ラモス
上映時間:160分
解説&感想(ネタバレあり)
アレクサンダー・ハミルトンを描く傑作ミュージカル
本作はアメリカの建国の父の1人に数えられるアレクサンダー・ハミルトンの伝記ミュージカル。2016年のブロードウェイ公演を撮影してディズニープラスで映画として公開。あくまで舞台のライブ収録映像であり、一般的なミュージカ映画ではありません。
2015年に初演されたこのミュージカルは、トニー賞で史上最多の13部門16ノミネートを記録し11部門を受賞。さらにグラミー賞やピューリッツァー賞も受賞し、その芸術的完成度と社会的影響が力が高く評価されています。
また、2015年に米財務省は10ドル紙幣のアレクサンダー・ハミルトンの肖像を女性の肖像に置き換えると発表していましたが、その後、様々な議論や意見を経て、ハミルトンの肖像が維持されることになりました。本作の大ヒットによりハミルトンの功績に対する国民の関心が急激に高まり、ハミルトンの肖像を維持すべきという世論が形成されたことも影響しているとされています。このミュージカル映画が単なるエンターテインメントを超えた社会的現象であっことを象徴しています。
リン=マニュエル・ミランダの才能
本作で脚本、作詞、作曲、主演を務めたのはリン=マニュエル・ミランダ。監督を務めた映画『Tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』の記事でも触れましたが、なんともマルチな才能を持ったクリエイターです。
40代ですでにグラミー賞、エミー賞、トニー賞、ピューリツァー賞など、名だたる賞を受賞しています。エミー賞、グラミー賞、オスカー(アカデミー賞)、トニー賞をすべて受賞することを、それぞれの頭文字を取ってEGOTと呼びます(達成したのは史上21人)が、ミランダも近い将来に達成が期待されます(残り一つのアカデミー賞もノミネート経験あり)。そのマルチな才能は本作でも遺憾なく発揮されています。
有色人種を中心としたキャスト
ハミルトンを演じたミランダがラテン系であることを皮切りに、本作では白人である歴史上の人物の多くを有色人種の俳優が演じています。これは近年のポリコレ的な風潮というよりは、はなからそういうコンセプトでやっているのでしょう。
本作を構成する楽曲の多くが、ヒップホップ、R&Bといったアフリカ系アメリカ人にルーツを持つ音楽であるので、大きな違和感なく受け入れられます。このままのキャストで本来の形のミュージカル映画にすると、さすがに違和感がありそうですが。
アメリカの建国の父
アレクサンダー・ハミルトンは、アメリカの歴史上では建国の父の1人に数えられるほど重要な人物ですが、世界史においては、それほど重要な人物と言うわけではないので、日本人にはあまり馴染みがないですね。日本で言う所の幕末の志士や明治維新の中心人物たちのようなイメージでしょうか。
以前、私はボストンを観光したことがありますが、ボストンの名所と言うと、アメリカ建国関連の史跡が多く、あまりピンと来なかったことを思い出しました。
一応簡単に説明すると、アレクサンダー・ハミルトンは、アメリカの初代財務長官を務めた政治家。財務長官として、国立銀行の設立や国の債務整理を行い、アメリカ経済の基盤を築きました。また、合衆国憲法の成立を強く後押しし、その重要性を説くために「ザ・フェデラリスト」を執筆するなど、後のアメリカ政治に大きな影響を与えました。一方で、議論好きな性格が原因で多くの政敵を抱え、最終的には政治的な対立から決闘で命を落としました。上述の通り、彼の肖像画は10ドル紙幣にも描かれており、その業績は現在も高く評価されています。
本作は、カリブ海の島で貧しい孤児として生まれたハミルトンがアメリカに渡り、やがて建国の父の一人として歴史に名を刻むほどの業績を残して命を落とすまでを描きます。友情、愛、裏切り、挫折が入り乱れた波乱万丈の人生を映し出します。
楽曲と演出、パフォーマンス
本作は、観客をぐいぐい引き込む楽曲の素晴らしさは当然として、演出もパフォーマンスも素晴らしいです。トニー賞の史上最多ノミネートもそれを物語っています。
本作の楽曲は、ヒップホップ、R&B、ジャズ、ブロードウェイの伝統的な音楽が絶妙に混ざり合っています。印象的なメロディーもさることながら、作詞の素晴らしさが圧倒的。本作は台詞のシーンがほとんどなく、ほぼ楽曲だけでストーリーを構成していますし、歴史上の話を土台としていますから、楽曲の構成やリリックにさまざまな制約が生まれているはず。しかし、それを感じさせないほどにリリックがリズムとメロディーに乗り、しかも韻を踏みまくっています。文字にしたら相当の数になるであろうリリックをできればすべて英語のままで理解したいところですが、それができないのが悔しいです。
演出面で目を見張るのは、洗練された振付や舞台装置。円形の回転装置を使ったダンスは楽しいです。アンサンブルによるダンスも単なる背景ではなくメインの演者と絶妙に絡みながら、しっかり目を引くものになっています。
パフォーマンスについては、個人的に圧倒的に素晴らしいと感じたのはアンジェリカを演じたレネイ・エリース・ゴールズベリイ。三姉妹で歌う"The Schuyler Sisters"でも目立っていますし、"Satisfied"などはもうゴールズベリイの独壇場。リズムに乗りこなした早口のリリックが痺れます。トニー賞でミュージカル助演女優賞受賞は当然の結果でしょう。
印象に残った楽曲
印象に残ったいくつかの楽曲について感想を。物語の結末に向けて、しっとりした楽曲の多い第二幕よりも、ノリが良く演出も冴えた第一幕の方が印象的な楽曲が多いですね。
"Alexander Hamilton"
アレクサンダー・ハミルトンの人生をダイジェストで紹介するオープニングナンバー。主要な登場人物たちが語り手として登場しエネルギッシュに歌い上げます。つかみとしてバッチリで、観客を一気に作品の世界に引き込みます。
"My Shot"
ハミルトンが仲間たちとともに革命の意志を固める決意表明の歌。映画ではThe Roots featuring Busta Rhymes, Joell Ortiz, and Nate Ruessによるリミックス版がエンドロールで使われるなど、本作を代表する一曲です。本作の別の楽曲でも、この楽曲のモチーフがたびたび引用されています。
ハミルトンの情熱的な性格や「チャンスを逃さない」という強い決意が溢れ出るパワフルなナンバー。心地よく韻が踏まれ、ノリノリで聞ける一曲です。
"The Schuyler Sisters"
スカイラー家の個性豊かな三姉妹が登場し、力強く歌い上げるナンバー。耳に残るメロディーとユーモア溢れる歌詞も印象的です。上述の通り、アンジェリカが抜群のパフォーマンスで存在感を見せつけます。
"You'll Be Back"
イギリスの王、ジョージ3世が植民地であるアメリカの人民に向けて歌うコミカルなナンバー。反逆するアメリカに対して、イギリス支配に戻るべきだということを歌っていますが、それをまるでラブソングのように仕上げた歌詞が見事です。
演じるジョナサン・グロフが、確かな歌唱力と演技力でコミカルに表現していて、思わず拍手したくなる見事なパフォーマンスでした。
"Satisfied"
アンジェリカがイライザとハミルトンの結婚式を回想しながら歌うナンバー。ハミルトンへの恋心を抑えて妹の幸せを願うアンジェリカ。優しく、思慮深いアンジェリカがすべてを理解した上で悩み抜き、複雑な心情を吐露する様子に引き込まれます。上述の通り、ゴールズベリイの独壇場と言える圧倒的なパフォーマンスにより、それがさらに際立ちます。
また、時間を巻き戻して、前の楽曲"Helpless"のシーンを別の視点で見せるという演出も秀逸です。"Helpless"のメロディも重なり、見事な楽曲でした。
"Guns and Ships"
ラファイエットがフランスの支援を得て、独立軍が勢いを増していく様子を描く楽曲。この楽曲は、ラファイエットの早口で捲し立てるようなラップが圧巻です。
"Dear Theodosia"
ハミルトンとアーロン・バーが、それぞれの幼い息子に愛情を込めて語りかけるナンバー。やがて敵対する2人が息子への愛情表現でリンクします。「お前のために国をよくする」みたいな歌唱がありますが、これなんて2人の立場だから言える台詞ですね。
"Non-Stop"
ハミルトンが財務長官に就任し、アメリカ建国の重要な役割を果たしていく姿を中心とした第一幕のフィナーレ。「周りを見て」、「満足しない人」、「歴史が見てる」、「チャンスを逃さない」。これまでの楽曲のフレーズとメロディが畳みかけられる終盤は鳥肌ものです。
"Cabinet Battle"
ハミルトンとジェファーソンによる内閣会議での激しい討論。これをラップバトルで表現するというアイデアが最高です。18世紀の物語が展開する中、突然ハンドマイクを手に現れる出演者に思わずニヤけてしまいました。
最後に
今回は映画『ハミルトン』の解説&感想でした。本作は映画として公開されたものの、ブロードウェイ公演を撮影して公開したものなので、映画としてどうかという話はできません。しかし、舞台としては間違いなく素晴らしい作品で、楽曲、演出、パフォーマンスのすべてが高いレベルで調和し、脅威的な出来栄えでした。本来の形でミュージカル映画にしたものもぜひ見てみたいところです(上述の通り、キャストをどうするか問題がありますが)。
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